商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

無効審判事件の口頭審理について
=私が経験した僅かな口頭審理から=

 特許庁審判事件の内、当事者系の審判は口頭審理が原則であることは、特許法等に明記されている(145条1項、商標法56条)が、口頭審理の件数は少ない。私も、現職時代僅か2件を経験したに過ぎない。弁理士時代も、2、3件である。

 審判長の指揮と代理人の対応が重要 最初の案件は、 証人調べがあるもので、合わせて口頭審理を行った。予定通りに進行し、当事者双方に陳述及び証拠の認否をして貰い、主張、立証は尽くしたことを確認して、その場で結審に持ち込んだ。
 この事件では、双方の代理人が的確に対応してくれた。代理人は何回も審判廷に足を運んで傍聴し、事前準備や予習したことを後に知った。その成果が随所に窺われた。証人が会津若松市在とあって、ホテルを借りての地方巡回審判であった。
 ところが、次の事件では、全く逆の事態となってしまった。開廷直後から、一方の代理人が、数日前に受任したことや事案とは無関係なことなど、代理人としては首を傾げる発言が続いた。どうにか争点に沿った審理に誘導しようとしたが一向に改まらない。このような事態を見て、他方の代理人は勝利を確信したような視線を送って来た(審判長の私にはそう見えたのかもしれない。)。このまま審理を続行しても噛み合わず、とても結審どころか争点整理もできないとの判断に至り、急遽合議をし、当事者が出廷していたので、休廷して和解を提案した。
 合議官ははらはらしたようだが、一連の指揮には、指定代理人として通った知財高裁での口頭弁論の経験を生かして乗り切った。後日和解が成立したと報告があり、一件落着した。当時ポロ事件等を抱え、10数件の出訴事件があり、指定代理人として頻繁に高裁に出廷していた。

 不使用取消審判事件の例 弁理士時代代理人として出廷したのは2件とも、不使用取消審判事件であった。不使用取消審判では、被請求人の使用の立証が必要で(商標法50条 2項)、物証による(同2条3項)。審判長は、提出証拠では使用の認定には不十分で、釈明を求める審尋のためと思われた。これは文書でも可能で、私は、口頭審理の開廷には首を傾げた。ノルマ達成のためであったのかもしれない。
 その中の1件では、釈明のやり取りを聞いていた被請求人(商標権者)本人が、別途使用の事実があると主張し、審判長はその証拠の提出を命じた。請求人側の私には、勝てる事件がするりと逃げてしまった思いであった。
 私は、口頭審理は無効審判事件には必要だが、不使用取消審判事件には不適と思っていたが、これは現在でも変わりはない。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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