商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

商標事件と私の山歩き里歩き
=歩く途中で出会い思い出した商標事件=

 私の趣味は山歩き里歩きで、30年近く続けている。山や高原だけではなく、最近は、史跡巡りや乗り鉄も楽しんでいる。その最中に、商標事件を思い出すこともある。ご当地関係事件で、有名な事件が多い。

浅間山事件 先日、軽井沢から信濃追分を巡った(2023/6/19)。浅間山(2568m)の麓である。帰りの車中、「浅間山」を巡る事件を思い出した。「浅間山」は、商品の産地・販売地表示として拒絶された(32類 平成26.6.30 知財高裁平成25(行ケ)10332)。処が、「浅間山」は半世紀前には登録されていた(33.3.28 審判30-181)。その後、浅間山山麓地域は商業圏等としても発展したということであろうか。因みに、私の審査官修業時代、「阿寒湖」(31.11.26 抗告29-1468)は登録後審判で無効、「浅間山」は登録、何故かと研修の題材にされた。後者は山岳名とされ、前者は当時から観光地として知られていたからだったと思う。雌阿寒岳(1499m)に登った時阿寒湖を遠望した(2011/6/12)。

平和台饅頭事件 福岡に出張し研修終了後、大濠公園から福岡城址を歩いた(2008/10/18)。寡って当地には平和台球場があり西鉄ライオンズの本拠地で、中西、稲尾選手等が大活躍したことは知られている。「平和台饅頭事件」がある。この事件も、東京高裁迄争われて、特別顕著(識別性)の要件を欠くとされた(S41.8.25 東京高35(行ナ)146)。地名ではないが、知られた施設名も産地、販売地表示と同等とされたようだ。

瀬戸大橋侵害事件 高松行き特急で瀬戸大橋を通り、瀬戸内海を渡った(2014/04/22)。「瀬戸大橋」については、完成前に登録を得た方がいて、開通後地元の土産店等を相手に侵害訴訟を提起した。裁判所は、「瀬戸大橋は産地、販売地に準ずるものというべきで、また、かかる公共建造物の名称を一個人に独占使用させることも適当でない。そうすると、本件商標権の効力は、商標法26条1項2号により債務者の商標には及ばない。」(S63.5.23 高松地観音寺支部62年(ヨ)29)と判決した。抗弁事由商標法26条は、当該口頭弁論終結時が判断時で、その時は完成し土産店等が営業中であったのである。

 千葉の成田方面を訪ねた時は、「鉄砲漬」をお土産に求めることが多い(2011/1/22他)。瓜漬で好物である。「鉄砲漬」も商標事件になり、出願して東京高裁迄争われたが、当地等の名産で漬物の一般名称と理解されるとして(S58.7.28 東京高裁57(行ケ)55)、拒絶が確定した。
 水戸方面へは常磐線を利用する。石岡の史跡を歩いた帰途車中で(2022/10/26)、鉾田は近くの太平洋側の筈で、「HOKOTA BAUM」事件を思い出した。地名+指定商品名として独占不可とされた(H24.10.3 知財高裁24(行ケ)10197)。使用による識別力の獲得もならなかったと思う。

 趣味ハイキングの途中で、商標事件を思い浮かべるのは相応しくはないが、長い職業柄の所為で止むを得ないだろう。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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