商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

結合商標と要部観察
「セイコーアイ事件」判例の読み方とその後

 最新の知財高裁の裁判例で次の説示に出会った。『その(本願商標)構成部分の一部であり、文字部分のうち強く支配的な印象を与える「REIGN」の部分を抽出し、当該部分(以下「本願要部」という。)だけを他人の商標と比較して商標の類否を判断することも許される』(知財高裁令和5年(行ケ)第10017号 令和5年6月22日「REIGN事件」)。この裁判例では、「強く支配的な印象を与える部分」を「要部」と置き換えている。

 「セイコーアイ事件」判例 結合商標の類似判断の判例として、「セイコーアイ事件」判例(最高裁平成3年(行ツ)第103号 平成5年9月10日 民集47巻7号5009頁)があり、前掲裁判例でも、引用して類否似判断の前提としている。この判例は、指定商品中の「眼鏡」に係り、「SEIKO EYE」については、支配的な印象を与える「SEIKO」と、一般的、普遍的な印象を与える「EYE」とに分離して、後者よりは称呼、観念は生じないと判示した判例であり、結合商標について、分離乃至は要部観察の基準を示したものとされる。
 「支配的な印象を与える文字部分」 結合商標について、「支配的な印象を与える文字部分」と「一般的、普遍的な印象を与える文字部分」とに分けられる場合は、分離乃至要部観察が許されるとしたのであるが、しかし、識別性や出所表示機能性及び要部の語を使用していないため、分かりにくい判示となっていた。当時特に、「支配的な印象を与える文字部分」については、先例もなく、実務家仲間では、理解がまちまちであったと思う。

 私見 私は、これを、当該事案等から出所表示機能が強い部分と解し、要部のことだろうと考えていた。法令用語ではない要部について、最高裁流に解して表現したのであったろう。私は、更に著名性は要せず、相対的に出所表示機能が強い部分と解していた(拙稿「最近の商標法実務上の要点と解決の方向後編」発明2018年6月号46頁)。
 その後、知財高裁では、「セイコーアイ事件」判例は結合商標の類否判断の際は、必ず引用されるに至った。
 そして、冒頭の最新裁判例に出会い、私の読み方はそう間違いではなかったのである。最近結合商標の類否に係る裁判例が多く、そこでは、要部観察の是非が争われて、「セイコーアイ事件」判例は、その是非の基準にされている(知財高裁令和4年(行ケ)第10121号 令和5年4月25日「Julius Tart事件」、知財高裁令和4年(行ケ)第10119号 令和5年5月18日「CLEAR事件」他)。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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