商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

新しいタイプの商標「色彩のみからなる商標」最新裁判例三例
=審決取消訴訟事件、不正競争防止法事件=

 「色彩のみからなる商標」は、平成26年の商標法一部改正で登録が認められた新しいタイプの商標の一つで、図形等と色彩が結合したものではなく、色彩のみからなる商標である(商標法2条1項)。この場合の色彩とは、「輪郭のない色彩」で、すなわち色彩自体が登録対象であることが特徴で、複数の色彩を組み合わせたものと、単一の色彩によるものがある。使用例としては、商品又は役務提供の用に供する物品や広告媒体等の全体やその一部について、色をもって塗り潰し又は付したものである。図形である三色国旗等とは、輪郭がない点でも、異なる。

指定商品鉛筆に係る色彩のみからなる商標の識別力が否定された事例(令和5年1月24日 知財高裁令和4年(行ケ)第10062号 「ごく暗い赤の鉛筆事件」)
 本件事案では、単一の色彩のみからなる商標(左掲図参照)の識別力の有無が争われ、知財高裁は、使用による獲得をも含めて否定し、自他商品の識別力なしと判断した。原告のアンケート調査結果でも、原告商品と認識する者が50%未満というもので、色彩に対する需要者の認識実態が反映していると思われる。更に単一の色彩のみからなる商標の登録については、独占適応性の点からも登録は不適とされた。
 これまで、単一の色彩のみからなる商標については、「橙色事件」(令和2年3月11日 知財高裁令和元年(行ケ)第10119号 、「オレンジ色油圧ショベル事件」(令和2年6月23日 知財高裁令和元年(行ケ)第10147号、令和2年8月19日 知財高裁令和元年(行ケ)第10146号)と同旨の判決が続いている。

「ルブタン色彩商標」について使用による識別力の獲得に高いハードルを課し、否定した事例(令和5年1月31日 知財高裁令和4年(行ケ)第10089号 ルブタン審決取消請求事件)
 本件事案では、原告が商標法3条2項の適用についてのみを争ったもので、それが否定された。原告は広範囲に立証したが、知財高裁は、本願商標は公益上一私人の独占不適な商標であってその例外となるには高度な識別力の獲得が必要と高いハードルを課し、識別力獲得へのマイナス要因として、構成態様が特異なものではないこと、原告商品には別途ロゴ商標が付されていること、複数の事業者が赤色靴底の女性用ハイヒール靴を販売していたこと及び本件アンケートの調査結果も全国的なものでないことを挙げて、否定した。

不正競争防止法により使用差止等を求めた「ルブタン色彩商標」については控訴審も棄却(令和4年12月26日 知財高裁令和4年(ネ)第10051号 原審・東京地裁平成31年(ワ)第11108号 ルブタン不正競争防止法差止等請求事件)
 原告ルブタン側が控訴した事案で、知財高裁は、不正競争防止法2条1項1号適用の争点中、混同の虞なしとして控訴を棄却した。控訴人、被控訴人両商品の購買者層の明らかな相違、購買時に払わる注意点や当該商品に付されたプレートやブランド名の有無の具体的取引の実情から混同の虞を判断し、否定した。加えて、ライセンス商品又は控訴人らとの提携関係のある商品からの広義の混同の虞についても言及し、否定している。しかし、原告表示(女性用ハイヒール靴底に赤色を付したもの・前掲事件図参照)の出所表示機能性及び周知性については、何ら判断していないし、それらの存在を前提として混同の虞を否定したものでもない。控訴人側も、本事件に関心を持つ者も最大の関心事はそちらではなかろうか。2条1項1号の混同は出所である。不正競争防止法2条1項2号については、著名性を否定した。

 特許庁サイトでは、現在9件の登録例があるがいずれも二色以上のもので、単一色に係るものはヒットしない。裁判所も、「色彩のみからなる商標」については、慎重に認定判断し、単一色に係るものについては、独占不適が原則との解釈を示している。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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