商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

北朝鮮シジミの国産偽装事件は不正競争防止法違反
=産地偽装は原産地等誤認惹起行為=

 昨年末、北朝鮮シジミの国産偽装が不正競争防止法違反の疑いで、山口や福岡、茨城、埼玉、東京で捜査されたと報道された(2022.12.22讀賣)。久しぶりの不正競争防止法上の原産地等誤認惹起行為(2条1項20号)刑事事件である。最近は、食品表示法(平成25年法律70号)で取り締まられていた(「熊本県産アサリ産地問題」2022.2.8讀賣外)。平成25年食品表示法が施行されて、行政規制の外、刑事罰も可能となったからと思われる。

 不正競争防止法は、不正競争行為として原産地等誤認惹起行為(2条1項20号)を規定し、商品又は役務の原産地や品質、内容などについて取引上誤認させるような表示をする行為、又はそのような表示をした商品の譲渡又は役務の提供などをする行為を禁止し、取引上の商品、役務全般に適用される。
 例えば、外国産海産物アサリに、「熊本産アサリ」と表示することは、産地を偽り、熊本アサリ業者の利益や信用を害すると共に、熊本産と思い込んで購入した消費者の利益を害することになるため、このような行為は不正競争行為とされている。不正の目的(不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正な目的)で、本行為をした者、また、本行為について虚偽の表示をもってした者には刑事罰が科される(21条2項1、5号)。
 私の調査では、これまで、不正競争防止法違反の刑事事件は、専ら原産地等誤認惹起行為のみと言っても過言ではない。結果的に消費者を欺き公益性が高いからだろう。
 過去の知られた事件として、「比内鶏」でない鶏肉を「比内鶏」と偽って表示して加工品を製造販売した者が懲役4年の実刑判決(「比内地鶏偽装事件」2007.11.10讀賣夕刊、2008.12.24讀賣夕刊)、また他地区産の牛肉を「但馬牛」と偽って表示して販売した船場吉兆本店が捜索を受けた事件(「船場吉兆本店事件」2007.11.16讀賣)、豚、鶏肉などを混入して偽装した牛挽肉を販売した会社社長が懲役4年の実刑判決を受けた事件(「ミートホープ事件」2008.3.19讀賣)等がある。
 今回の事件は、食品表示法ではなく、何故不正競争防止法適用かは不明だが、捜査先が広範囲な上に、資金の流出先が北朝鮮ではないかとの見方があるからだろうか。

追補  法律で定められたアシスト力を上回る電動アシスト自転車を適法品だと偽って販売したとして、京都府警は16日、不正競争防止法違反の疑いで、自転車販売会社と代表取締役を書類送検したと報じられた。法定内の能力の商品だとする虚偽の表示をした疑いで(23.1.16京都新聞)、原産地等誤認惹起行為の品質誤認表示事案のようである。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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