商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

登録商標の普通名称化の事例
商標法26条1項2号の適用の問題

 登録商標でも使用の態様等次第では、指定商品・役務の普通名称となってしまう場合がある。商標権の効力が及ばない範囲として、商標法26条1項2号には、商標権に係る指定商品・役務又はその類似商品等の普通名称・・・と規定されている。この規定は、侵害訴訟で、相手方被告側の抗弁事由として機能し、被告側が普通名称であることについて主張、立証しなければならない。これが成功し裁判所が認めれば、侵害訴訟は棄却され、当該登録商標が指定商品・役務の普通名称乃至は普通名称化へ繋がることになる。
 なお、「うどんすき」(平成9年(行ケ)第62号)、「ういろう」(平成12年(行ケ)第321号)を普通名称化の事例に挙げる文献情報もあるが、無効審判の審決取消訴訟の中でのもので、商標権の効力の範囲に係る本件の以下とは事案が異なる。

 具体的な事例としては、「人参酒」に係る登録商標「高麗」と類似の「高麗人参」については、「高麗人参」はその普通名称であるから、商標権の効力は及ばない(昭和58年11月25日 大阪地裁同58年(ワ)第267号 判例タイムズ514号309頁、控訴審昭和59年10月30日 大阪高裁同58年(ネ)第2393号 判例タイムズ543号321頁)。以下同様に、「ドロコン」は「壁土等」の普通名称(平成2年11月30日 名古屋地裁同61年(ワ)第1394号 判例タイムズ765号232頁)、「用紙差し替えなど機能的な手帳」に使用する「SYSTEM DIARY」はその普通名称(平成11年5月14日 東京地裁同10年(ワ)第18387号)として、それぞれ26条1項2号が適用され商標権の効力は及ばないとされた。
 その後も、「葡萄」について「巨峰」(平成14年12月12日 大阪地裁同13年(ワ)第9153号、 控訴審平成15年6月26日 大阪高裁同15年(ネ)第76号)、「三味線バチ」について「一枚甲」(平成18年10月26日 東京地裁同17年(ワ)第25426号 控訴審平成19年9月27日 知財高裁同18年(ネ)第110085号)、「クレオソートを主剤とする胃腸用丸薬」について「正露丸」(平成18年7月27日 大阪地裁同17年(ワ)第11663号、控訴審平成19年10月11日 大阪高裁同18年(ネ)第2387号 )、「節分用巻き寿司」について「招福巻」(平成22年1月22日 大阪高裁同20年(ネ)第2836号 22/3/15本コラム搭載「登録商標とその管理の重要性」参照)もそれぞれ指定商品の普通名称と認定されている。

 この規定のポイントは、判断時が裁判の口頭弁論終結時であることである。したがって、指定商品・役務の普通名称が誤って登録された場合の外、登録後普通名称化したときも、適用がある。商標権者の使用管理が重要となる。
 長野の親戚から届いた「巨峰」を目の前にしながら、前掲各裁判例を紹介した拙著「商標法の解説と裁判例」(改訂版308頁)を開いた。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

メルマガ登録
工藤 莞司 先生
工藤 莞司 先生
バックナンバー
ページTOPへ