商標・知財コラム:土肥 一史 先生COLUMN

一橋大学 名誉教授・弁護士 土肥 一史 先生

「不完全型」と「完全型」

他人の登録商標と同一又は類似する後続の出願商標は、それぞれの指定する商品又は役務が同一又は類似する場合、商標登録を受けることはできない(商標法4条1項11号)。これは商標法が採用する先願主義の帰結である。また、弁理士の商標出願実務では、出願商標の指定商品・役務はできるだけ広く指定すること、可能であれば全類指定することもかねてよりみられるところである。

今月1日、令和5年改正の不正競争防止法等の一部を改正する法律(令和5年6月14日法律第51号)が施行された。この改正により、不正競争防止法や商標法において重要な改正が実現している。

とくに、商標法では、「不完全型」のコンセント制度が導入された。ここで「不完全型」というのは、たとえ商標権者のコンセント(承諾・同意)があっても、先行する登録商標の指定商品・役務と混同を生ずるおそれのある後続の出願商標については、商標登録を認めないコンセント制度をいう。換言すれば、商標権者のコンセントがあれば、商標法4条1項11号の適用は排除されるものの(商標法4条4項)、同法4条1項10号や15号の適用は排除されないという制度である。

他方、「完全型」コンセント制度というのは、英国商標法5条(5)にみられるように、「コンセントを与えた場合には、本節のいかなる規定も当該出願商標の商標登録を妨げるものではない」とする制度をいい、混同のおそれの有無に関係なく登録を認める制度をいう。もっとも、「完全型」であろうと「不完全型」であろうと、先行する登録商標権者としては、自己の商品・役務とコンセントを与える後続の出願人の商品・役務との間で混同を生ずるおそれがあれば、その後続の出願人との間に企業系列関係のような特別な関係がない限り、コンセントは与えないと考えられる。

「不完全型」のコンセント制度では、商標権者と出願人との間でことが決するわけではなく、審査官は自らの判断で周知著名性や混同のおそれの有無(10号、15号)を判断して査定を行う。この意味において、審査官はコンセントに拘束されないので、審査官実務への影響はほとんどない。

他方、弁理士の実務には少なからず影響するのではなかろうか。先行する登録商標の指定商品・役務の範囲は、最初に述べたように、可及的に広く取得されようから、その結果、使用する予定のない商品・役務までも登録を受けていることが考えられる。従って、使用されていない商品・役務についてはコンセント制度が十分機能しよう。

コンセントを求めると、先行の商標権者から対価や見返りを求められることがないとはいえない。弁理士は、この領域において、その知識及び経験のみならず、交渉力も求められよう。これからは、顔の広い社交性のある弁理士先生がなにかと重宝されるのかもしれない。

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