商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

指定商品「フランス製の被服」と使用商品との同一性が争われた事案
令和3年(行ケ)第10087号 審決取消請求事件(知財高判令和4年3月22日)

■ 事案の概要
本件は、登録第5623868号の商標(以下「本件商標」という。)に対する、不使用取消審判に関するものである。
本件商標は「IRO PARIS」であって、審査において4条1項16号を理由とする拒絶理由通知を受けて、その指定商品は、第25類「フランス製の被服」など、「フランス製の商品」に特定されていた。
商標権者が使用する商品は、「フランス国パリにある原告の本社の従業員(デザイナーチーム)によりデザインされ,パリで入手可能な素材を使用してパリで試作され,フランス国法人としての原告による品質管理の下で製造されてはいるものの,本件使用商品はフランス国以外の国のサプライヤーによって製造されている」ものであった(判決認定)。
審決では、指定商品である「フランス製の」被服等ヘの使用ではないとして、本件商標の登録を取り消すべきものとし、判決も審決の認定を支持した。

■ 判決の説示
判決は、登録商標を使用すべき商品について次のように説示する。
(1) 商標法50条2項の適用に当たり,使用する商標については商標法38条5項かっこ書きが適用されるため,「登録商標と社会通念上同一と認められる商標」の使用であっても登録取消しを免れ得るが,いかなる商品についての使用であるかに関しては商標法に同旨の定めはないから,上記「社会通念上同一」とは登録商標に関する記述であって,「指定商品と社会通念上同一と認められる商品」について使用の事実を証明しても,商標の登録取消しを免れることはできないと解される。
(2) そして,本件指定商品は,「フランス製の被服」であり,「フランス製」とは,フランス国内で製造された物を意味すると解されるところ,前記認定のとおり,本件使用商品は,フランス国以外の国で製造された物であるから,本件使用商品の使用によっては本件指定商品について本件登録商標を使用したものと認めることはできないというべきである。

■ 景表法における「原産地」
判決は、「このことは,商品の原産地表示に関する不正競争防止法,関税法並びに不当景品類及び不当表示防止法の一般的な運用に照らしても明らかである。」と指摘する。そこで景表法の運用を見ると、以下のように規定されている。
(1)「商品の原産国に関する不当な表示」(告示)
備考1において、「この告示で「原産国」とは、その商品の内容について実質的な変更をもたらす行為が行なわれた国をいう。」と規定し、「「商品の原産国に関する不当な表示」の原産国の定義に関する運用細則」において、「外衣(洋服婦人子供服ワイシャツ等)」については「縫製」が行われた国を「原産国」としている。
(2)「商品の原産国に関する不当な表示」の衣料品の表示に関する運用細則
国産品について、以下の(1)に示す表示は不当表示であり、(2)に示す表示は不当表示に該当しないものとされている。

(1)

(2)

■ 原告の主張(審査便覧との関係)
原告(商標権者)は、審査便覧において「(3) 上記(1)(2)の場合において、商品又は役務を補正させる場合、例えば、「シャンゼリーゼ」又は「フランス」などの文字を含むときは、商品については「フランス産(製)の〇〇」のように、又、飲食物の提供に係る役務については「フランス料理の提供」のように補正させる。」(41.103.01 8(3))と規定されているが、この限定が「製造された」の趣旨であるとは明記されていないことを指摘した。しかし、判決は「「イタリア製の」との限定を付す補正を教示する拒絶理由通知書に対して「イタリアにてデザインされイタリア国法人としての出願人による厳格かつ恒常的な品質管理の下で出願人の指示に従って生産された」等の限定を付す補正を行い登録査定に至った登録第6430949号のような例もみられるのであるから,商標出願の実務において,「〇〇製の」と「〇〇国でデザインされた」等とは区別されているというべきである」と説示した。

■ コメント
この判決は、一部には「厳しい判断」と受け止められているようである。しかし、商標法50条では「指定商品」への使用が求められている。そして、商品の産地が景表法などで上記のように運用されており、「フランス製の被服」といえば「フランスで生産されたもの」というのが需要者の認識であろうと思われる。判決は妥当なものといえよう。
しかしながら、審査便覧は権利に範囲を定めるものではないとしても、審査便覧における「補正させる」という記述は是正すべきであろう。「~製」への補正は16号該当を回避するための「一つの方法」にすぎないのであるが、「補正させる」という記述は、出願人を誤らせることにもなりかねない。
出願人としては、審査基準・審査便覧は「審査」のための基準を示すものであって、権利の内容について責任を持つものではない、ということを理解し、手続きをする必要があるということを再認識する判決ではある。

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
峯 唯夫

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