商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

商品形状の著作権による保護
(令和2(ワ)9992 著作権侵害差止等請求事件)

■ 判決の概要
商品の形状と著作権との関係について、気になる判決を紹介します。令和3年6月24日の大阪地裁判決です。
この事件において原告は、被告商品は以下に示す「原画」の複製であると主張しましたが、裁判所は著作物性を否認し、請求は棄却されました。

(原告原画)

(出展:裁判所WEBサイト)

(被告商品)

(出展:裁判所WEBサイト)

■ 裁判所の判断と疑問
裁判所は、機能との分離可能を検討し、「実用目的で量産される応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては,純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることができる。」として分離可能であれば著作物性が認められるとの立場を表明しています。
しかしながら、原告の原画に著作物性はない、と認定しています。
峯の疑問点はふたつあります。
第一は、本件「原画」が物品「時計」のデザイン画としてしか評価されないものであるか、という点。
第二は、時計のデザイン画であるとしても、著作物として保護される余地はないのか、という点

■ 原画の評価
裁判所は、「原画」を商品の形態のために描かれたものだという前提で判断しています。しかし、この「原画」は、それ自体として、商品とのかかわりなく、一つの美術の著作物として評価できるものではないか、と思います。
以前原画の著作物性が争われた「ゴルフシャフト事件」(東京地判平成28年12月21日)とは事情が異なると思うのです。ゴルフシャフト事件で争われた「原画」は以下のものです。


(出展:裁判所WEBサイト)

原画にロゴマークも含められており、これが「鑑賞の対象」とは位置づけられないのは当然でしょう。他方、本件「原画」には商品との結びつきを示す要素はありません。「原画」を作品として展示しても違和感はなかろうと思います

■ 構成について
本件「原画」の大きな特徴は、文字9から12における枠はないこと、にあると思われますが、この点について判決は、「各数字の外周側に円弧状の枠が設けられていない部分は,デザインの観点から目を引く部分と見ることも可能である。もっとも,当該部分は,下部に上記枠の終端部が接する「9」を除くと,2桁の数字(「10」~「12」)が配置された部分であるところ,全ての数字の外側を円弧上の枠により囲んだ製品においては「10」及び「11」の数字のサイズが他の数字に比して明らかに小さいこと(乙3)にも鑑みると,上記枠の設けられていない部分に他の部分と同様に枠を設けた場合,10の桁を示す「1」の部分がそれぞれ円弧状の枠と干渉して数字を読み取り難くなり,時間の把握という時計の実用目的を部分的にであれ損なうことになると考えられる。そうすると,当該部分のデザインについても,時計の実用目的に必要な構成と分離して美的鑑賞の対象となるような美的特性を備えている部分として把握することはできない。
したがって,本件原画は,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものであるから,これを純粋美術の著作物と客観的に同一なものと見ることはできず,著作物とは認められない。」と認定しています。
あまりにも実用目的から遡及した認定、後知恵、ではないかと思います。

■ むすび
TRIPP TRAPP清水判決(知財高判平成27年4月14日)で世界が変わるか、と思われましたがそうではない。
分離可能を判断することは、峯も賛同しています。しかし、この判決のように、著作物性の認定に「後知恵」を入れ込んでしまうと動きがとれない。「後知恵」を入れ込むことで「実用品」の「著作権」による保護を排除したい、という裁判所の気持ちが伝わります。

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
峯 唯夫

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