商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

部分立体商標と位置商標

令和2年の商標法施行規則4条の3の改正により、立体商標の出願において実線と破線との書き分け(以下「部分立体商標」という。)が許容された。店舗や内装の保護の強化を目的としたものとされているが、これらに限られず、商品の立体的形状にも適用される。
部分立体商標と位置商標、どこが違うのだろうか。

「位置商標」については、商標法施行規則で「「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれらの結合又はこれらと色彩との 結合に限る。」(⒋条の6)と定義されているが、SCTでの議論を踏まえて、「識別力の無い表示を、表示位置を特定することで識別力を獲得する商標」といわれてきた。しかしながら、審査基準には「位置商標を構成する文字や図形等の標章が、本項各号に該当しない場合には、標章を付する位置にかかわらず、原則として、商標全体としても本項各号に該当しないと判断する。」(第1 第3条第1項 一 3条1項全体 7 位置商標について))と書かれており、位置商標を構成する標章それ自体が識別力を有しないことは要求されていない。
すなわち、同じ商品の立体的形状の一部を実線で表した図によって、「立体商標」として出願することも「位置商標」として出願することもできる。

筆者は従前から、「位置商標」は「部分立体商標」ではないか、と考えていた。
立体商標に、「部分」の特定が認められた今、両者を区別する必要があるのだろうか。部分立体商標において、破線などで現された部分は「商標を構成する要素ではない」という扱いであることによって、両者の線引きが困難になっているのではないだろうか。ちなみに意匠法における部分意匠は、部分立体商標と同様に、意匠登録を受けようとする部分を実線で、その他の部分を破線で現すのであるが、破線などで現された部分も意匠を構成するという考え(要部説と呼ばれる。)が通説とされている。

一般に、商品の形状を対象とする立体商標と位置商標は、3条2項の適用を受けて登録になるものが多い。そこで、3条2項の審査基準を見ると、出願商標と使用商標との同一性の判断に次のような違いがある。
部分立体商標については、(注)として「標章の位置を特定するために出願商標に係るその他の部分を考慮する位置商標と異なり、立体商標については、出願商標に係るその他の部分は考慮しない。」と記載され、位置商標については、「出願商標以外の標章が含まれているが、出願商標部分のみが独立して自他商品・役務の識別標識として認識されると認められる場合(は同一性が認められる)。」と記載されている。
両者の違いが具体的な摘要場面でどのような違いになるのか、よく理解できない。

類否判断に関する4条1項11号の審査基準では、部分立体商標については、「当該その他の部分を除いて、商標全体として考察しなければならない。」、すなわち、実線部分に基づく類否判断であり、破線部分の形状が異なっても類否に影響しないということであろう。他方、位置商標については「位置商標を構成する標章が要部として抽出されない場合」には位置を重視し、「要部として抽出される場合」は位置などは重視されないものとされている。破線部分の扱いが異なっているが、位置商標においても破線部分はその形状を見るのではなく位置を特定するための資料であろう。そうすると、具体的な判断場面では、部分立体商標と位置商標に違いはでないのではなかろうか。

このように見てくると、部分立体商標と位置商標とを峻別する意義がないように思われるところである。

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
峯 唯夫

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