商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

「京都市立芸術大学」と「京都芸術大学」(その後)

■ 事件の経緯
本コラム2019/10/18で、公立大学法人京都市立芸術大学(原告・控訴人)が学校法人瓜生山学園(被告・被控訴人)に対して、京都芸術大学の名称使用の差止めを求めて訴訟を提起したことを紹介しました。この訴訟は2020年8月27日に判決が出され、原告敗訴となりましたが、控訴審において2021年7月20日、以下の内容を骨子とする和解が成立しました。

■ 和解内容
和解内容の骨子は以下の通りです。
1. (1) 控訴人は,被控訴人が被控訴人大学の名称として「京都芸術大学」及び「Kyoto University of the Arts」を使用することに自ら異議を述べず,また,第三者をして異議を述べさせない。
  (2) 被控訴人は,控訴人が控訴人大学の通称又は略称として「京都芸大」及び「京芸」を使用することに自ら異議を述べず,また,第三者をして異議を述べさせない。
2. (1) 被控訴人は,今後,被控訴人大学の通称又は略称として「京都芸大」及び「京芸」を自ら使用せず,また,第三者をして使用させない(第三者が自ら使用した場合については,被控訴人は何らの責任を負わない。)。
  (2) 控訴人は,今後,控訴人大学の通称又は略称として「京都芸術大学」を自ら使用せず,また,第三者をして使用させない(第三者が自ら使用した場合については,控訴人は何らの責任を負わない。)。
3. (1) 控訴人の「京都芸大」の商標登録について,被控訴人は,自ら異議を述べず,また,第三者をして異議を述べさせない。被控訴人は,今後,指定商品及び指定役務を問わず「京都芸大」及び「京芸」の商標登録の出願を行わない。
  (2) 被控訴人の「京都芸術大学」の商標登録について,控訴人は,自ら異議を述べず,また,第三者をして異議を述べさせない。控訴人は,「京都芸術大学」の商標登録の出願を全て取り下げ,今後,指定商品及び指定役務を問わず「京都芸術大学」の商標登録の出願を行わない。
(以下省略)
(「和解条項」https://www.kyoto-art.ac.jp/student/wp-content/uploads/2021/07/64f4fa60a0fb6ebadba8dfbc41ed8ad9.pdf

■ 和解の意義
本件訴訟で争われたのは、被告における大学名「京都芸術大学」の使用の可否です。略称の使用は訴訟の対象ではありません。したがって、控訴審において何れが勝訴しても略称「「京都芸大」及び「京芸」の使用については決着が付きません。原審において、これらの略称が京都市立芸術大学の略称として周知であることは否認されており、瓜生山学園がこれらの略称を使用することが許容されることも考えられます。
和解により、これらの略称を被控訴人は使用しない、と取り決められたことで原告(控訴人)に一定のメリットがあるといえると思います。
なお、略称の使用に関して「第三者が自ら使用した場合については,被控訴人は何らの責任を負わない。」とされている点。前回のコラムで指摘した「略称は自然発生するものではないでしょうか。そして、自然発生した「略称」に、責任を持つ必要はないだろうと思います」と同じ考えによるものでしょう。

■ 余談
このコラム執筆にあたりネット検索をしていたところ、以下の記事に遭遇しました。
「2023年に移転予定の京都市立銅駝(どうだ)美術工芸高(銅駝美工、中京区)が移転に合わせ、校名を「京都市立美術工芸高」に改称する方針であることが分かった。市内には、私立の京都美術工芸大のキャンパスが東山区にあり、校種の違いはあれ、かなり似たものになる。」
 (毎日新聞 2021/6/22 地方版 https://mainichi.jp/articles/20210622/ddl/k26/100/334000c)
「京都市立美術工芸高」に関連して、京都市による以下の商標出願・登録が確認できました(8月6日時点)。指定役務はいずれも第41類「高等学校における教育」です。

出願日   2020-10-19
登録番号  6397875
登録日   2021.06.04

出願日   2020-10-19
登録番号  6397876
登録日   2021.06.04

出願日   2020-10-19
登録番号  6397877
登録日   2021.06.04

出願日   2020-10-19
出願番号  2020-134419
拒絶理由通知書 (第3条1項各号)

 

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