商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

「組立家屋」に係る意匠権は在来工法の「家屋」に及ぶのか

■ 「組立家屋」意匠権・不正競争事件
昨年4月1日より、改正意匠法により建築物が意匠登録の対象になりました。従前「組立家屋」という運搬可能な「物品」としてのみ意匠登録が認められていた「家屋」ですが、不動産としての建築物も意匠登録の対象になったのです。紹介する事案は、組立家屋に係る意匠権が、いわゆるハウスメーカーが販売する家屋以外にも及ぶののかが争われたもので、改正意匠法との絡みもあり注目されていたものです(東京地方裁判所 令和2年11月30日判決)。
原告は、請求の原因として意匠権と併せて不正競争防止法2条1項1号を掲げています。

■ 意匠権侵害
原告意匠(意匠登録第1571668号)は、意匠に係る物品を「組立家屋」とするもので、図に示す通りの部分意匠です。主な争点は、第一に被告意匠が「物品(組立家屋)」に該当するか否か、第二に類否です。
第一の争点につき裁判所は次のように、「物品」に該当すると認定しました。
「組立て後,使用される時点においては不動産として扱われる組立て家屋であっても,それより前の時点において,その構成部分を量産し,運搬して組み立てるなど,動産的に取り扱うことができるものである限り,(略)「組立て家屋」に該当するというべきである。本件についてこれをみるに,(略)被告各建物について,工場等で量産された木材及び構造用合板を現場に運搬し,同所で組み立てて建築するという工程を経たことが推認される。(略)以上によれば,被告各建物は,その建築工程等に照らし,使用される時点においては不動産として取り扱われるものの,それよりも前の時点においては,工業的に量産された材料を運搬して現場で組み立てるなど,動産的に取り扱うことが可能な建物であるから,「組立て家屋」に該当すると認められる。」
次いで類否につき、需要者を「木造戸建て住宅の購入に関心がある一般消費者」と認定し、需要者に起こさせる美感が共通するとして類似性を認め、意匠権侵害を肯定しました。

■ コメント
判決は、工場等で量産された木材及び構造用合板を現場に運搬し,同所で組み立てて建築するという工程を経たことを根拠に被告建物の物品性を肯定しています。現在、在来工法で建築される住宅用建物の殆どは、木材を工場でカットして現場に搬入して組み立てていることからすると、住宅用建物の多くは「組立家屋(物品)」ということになりそうです。
意匠法の改正にあたり、改正前に登録された「組立家屋」の意匠権の効力が「建築物の意匠」に及ぶのかどうかが議論されました。筆者は及ばないであろうと理解しており(権利内容は設定登録時に確定される)、一部には「組立家屋」の登録意匠を基礎意匠として、関連意匠として「建築物の意匠」を出願することも考えられているようです。しかし、この判決の認定にしたがえば、「組立家屋」に係る意匠の意匠権が、多くの住宅用建物の意匠に及ぶことになりそうです。

■ 不正競争防止法
原告は、原告製品形態上の特徴を,「正面視において,左右の壁が形成する2つの縦長の矩形,2階天井部が形成する1つの横長の矩形,地面と垂直に設けられた柱部,及び,地面と平行に設けられた梁部によって,変形『田』の字(『田』の字の4画目まで)が形成されている。」と特定しました。
この主張は、「原告製品形態と同一又は類似の形態を有する建物が存在する状況に照らせば,原告製品形態は,その形態を個別にみても,これらの形態の組合せとしてみても,家屋の正面視に関する形態として,客観的に他の同種製品とは異なる顕著な特徴を有しているとまでは認められない。」として退けられました。

■ 商標の側面からの考察
商標登録における指定商品として「組立家屋」はJ-Plat Patには掲載されていません。しかし、INTERMARKの「商品役務名検索」で検索すると「組立家屋」を指定商品とした登録例が散見されます。例えば、第19類「組立家屋」(登録第452613号)、第19類「組立家屋(金属製のものを除く。)」(登録第5006485)。
指定商品「組立家屋」とは、家屋の構成部材がセットとして流通するものを想定していしていると思われます。「セット」の意味合いを厳格に考えるならば、「家屋」を構成する部材が一まとめにされて流通することが要請されます。しかし、製造段階で「セット」として構成された以上、セットを構成する部材を分割して流通させてもセットの流通であると考えることもできそうです。
前者の立場であれば、意匠権に係る裁判所の判断は商標権の効力に影響を及ぼすものではなく、「組立家屋」を指定商品とする商標権の効力は在来工法の建築物には及ばないことになるのでしょうが、後者の立場に立つと「組立家屋」を指定商品とする商標権の効力が在来工法の建築物に及ぶ可能性もあるように思われます。

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
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