商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

‘うどん県’の「うどんタクシー」

■ うどんタクシー
「貸し切りタクシーで香川県の讃岐うどん店を案内するサービスで、「うどんタクシー」の名前を使われて商標権を侵害されたとして、同県琴平町の「琴平バス」が高松市の「空港タクシー」を相手取り、商標の使用禁止などを求める訴訟を高松地裁に起こした。
訴状によると、琴平バスは2003年8月、貸し切りタクシーでうどん店を巡るサービスを始め、翌04年に「うどんタクシー」を商標登録した。一方で、空港タクシーは遅くても18年5月から、ホームページで同様のサービスを「うどんタクシー」として紹介している。
琴平バスは今年1月、うどんタクシーという名前を使わないよう文書で求めたが、空港タクシーは「商標の効力は及ばない」として使用を続ける旨の回答をしたという。空港タクシーは取材に対し「係争中なので答えられない」としている。」という記事に接しました(朝日新聞DIGITAL 2020/07/13)。
商標「うどんタクシー」(登録第4789305号)は、第39類、車両による輸送,旅行者の案内などを指定役務として2004年に登録されています。権利者である琴平バスは、ほかに「酒タクシー」「遍路傘タクシー」も展開しているようです。

空港タクシーが「商標(権)の効力は及ばない」と回答した根拠を探ってみます。

■ 商標法26条
商標法26条1項3号は、役務の内容を普通に用いられる方法で表示する商標には、商標権の効力が及ばない旨を規定しています。「うどんタクシー」は「うどん店巡りをするタクシー」であることを示すにすぎない、ということであれば、商標権の効力は及ばないということができます。
この種の食べ物に絡んだ観光タクシー(ご当地タクシーという呼び方があるようです)として、次のようなものが見つかりました。「愛しの塩ラーメンタクシー」(函館市)、「白河ラーメンタクシー」(白河市)、「アップルパイタクシー」(弘前市)、「鮎菓子タクシー」(岐阜市)、「燕背脂ラーメンタクシー」(三条市)、「金澤寿司タクシー」(金沢市)、「温泉タクシー」(長野県栄村)、「軽井沢スィーツタクシー」(軽井沢町)、「馬刺しタクシー」(熊本市)、「カステラタクシー」(長崎市)、「チキン南蛮タクシー」(宮崎市)。
(日本ご当地タクシー協会事務局HP https://www.gotouchi-taxi.org/taxi/ による)

■ 特許庁の判断
「アップルパイタクシー」(6044503、2018.05登録)、「鮎菓子タクシー」(6280675、2020.08登録)、「燕背脂ラーメンタクシー」(6183681、2019.9登録)、「金澤寿司タクシー」(5523876、2012.09登録)という登録状況であり、いずれの商標も拒絶理由通知はなく、指定役務は「自動車による輸送」として登録されています。その他の商標は出願されていないようです。

■ 裁判の行方
特許庁では、商標「うどんタクシー」その他のご当地タクシーの名称を識別力のあるものと判断して登録しています。しかし、このことがそのまま、26条に該当しない、という裁判所の判断につながるものではありません。26条に該当するか否かは、裁判所において、被告が当該商標を使用している具体的な役務との関係で判断されます。この点は、前回の「白クマ」で紹介したところです。
すなわち、被告が商標「うどんタクシー」を使用して提供する役務を、一般的な「タクシー」として捉えるのではなく、「うどん店を案内する観光タクシー」として捉えたうえで、タクシーの利用者が、「役務の内容」を表示するに過ぎないと認識するか否かが判断されます。 上記のようなご当地タクシーが存在することを考慮すると、難しい判断になりそうです。

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
峯 唯夫

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