商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

「大相撲」は商標としてどうなっているのか?

■ オリンピックのアンブッシュマーケティングの声が高い中、日本国民足下の「大相撲」は、商標でどのような状況なのだろう、とふと思い立ち、INTERMARK文字検索「大相撲」(完全一致)で検索してみました。その結果が以下の通りです。

■ 商標「大相撲」

登録番号権利者・出願年区分
945614読売新聞東京本社(1969)  16
2001542サントリーホールデ(1985)  32*
0002680273(消滅)堀井(1992)  旧16
3012574 カンロ(1992)  30
0003044655(消滅)皆様石鹸販売(1992)  旧03
5007938宇治田原製茶場直売部(2006)  30
6070961金子 信子(2017.)  24

拒絶例も、拒絶理由通知(3条、4条1項7号)の形跡もなく、7件登録されています(内消滅2件)。驚いたことに、相撲協会の登録がないのです。
そこで、「相撲」を検索してみました。
ベースボールマガジン社の登録(第16類「雑誌」 登録第1797208号)の他数件の登録があり、日本相撲協会もサービスマークが導入された1996年に5件出願していますが、第41類(相撲の興行など)は拒絶査定となり、登録されているのは第9類(登録第4221629号)のみです。

■ これでいい、だけど
「相撲」は、法律での規定はありませんが社会通念上は「国技」の普通名称ですが、「大相撲」は「日本相撲協会が興行する、職業力士によるすもう。」(「新明解」)ですから公益財団法人日本相撲協会が相撲興行について使用する商標です。日本相撲協会が「商標」にこだわらない姿勢は、好ましいと思います。
第三者が「大相撲」という名前で「相撲の興行」を行うことは考えられないし、地域のイベントで「**大相撲」という名前で「相撲大会」をやったしても、それを「やめろ」という気持ちはないのでしょう。やめろと思うならば不競法がある(「混同のおそれ」は?さておき)。
特許庁の運用も、これでいい。「相撲」も「大相撲」も4条1項6号、7号の拒絶例はないようです。どちらも慎重に適用すべき規定です。
しかし、「オリンピック」商標との整合性が疑問になります。

■ オリンピック
商標審査基準4条1項6号では、以下の商標は、著名であれば6号に該当するものとしています。(H29.3改訂)
①国際オリンピック委員会や日本オリンピック委員会が行う競技大会であるオリンピックを表示する標章としての「オリンピック」及び「OLYMPIC」、その俗称としての「『五輪』の文字」、そのシンボルマークとしての「五輪を表した図形(オリンピックシンボル)」
審査基準では「公益に関する団体であつて営利を目的としないもの」の例示として「公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律による認定を受けた公益社団法人又は公益財団法人」が掲げられています。
登録第6070961号「大相撲」は2017年(H29)11月の出願であり、H29年3月改定の審査基準での審査です。「オリンピック」が特別扱いなのか、「大相撲」が忘れられているのか。どうなのでしょうか。

■ 「相撲」判決(参考まで)
昭和13年 4月16日 大審院 昭12(オ)2053号
相撲は普通名称であるが、指定商品「雑誌」について商標「相撲」は特別顕顕著性(識別力)を持つと判示された事案です。現在の第16類における、普通名称ではあるが、指定商品「雑誌、新聞」であれば識別力がある(3条1項に該当しない)という運用の妥当性を判示しています。

 

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