商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

「ブランド」についての若干の整理

「商標」と「ブランド」は同じではない、ということは皆さん理解ないしは感じていることと思います。
では、新聞記事などでしばしば接する「A社はこのたび新しい『ブランドα』を立ち上げた。」という表現をどのように感じますか。格別違和感を感じることなく「ふ~ん、そうなんだ」と受け入れる人もいるのではないでしょうか。

「ブランド」って、立ち上げることが可能なのでしょうか。
絶対に無理です。
アメリカ・マーケティング協会の定義によれば、ブランドとは「ある売り手あるいは売り手の集団の製品およびサービスを識別し、競合他社の製品およびサービスと差別化することを意図した名称、言葉、シンボル、デザイン、あるいはその組み合わせ」とされています。これはコトラーの定義に基づくものですが、商標との違いがわかりにくいように思います。

今、マーケティングの分野で「ブランド戦略」「ブランド創り」というように使われている「ブランド」は、「企業と需要者の間で共有される好感のあるイメージや信頼感」程度の意味合いです。そして、「見えない」「伝えられない」イメージを「見える化」して表示し、伝える道具が「商標」です。「商標」が「ブランド」を表象していると言ってよいでしょう。
すなわち、企業が「ブランド」だと思っても市場で需要者に共感が得られなければ「ブランド」とはいえません。
したがって、「A社はこのたび新しい『ブランドα』を立ち上げた。」ということは起こり得ないのであり、「A社はこのたび新しい『商標α』の使用を開始した。」ということを意味しているに過ぎないのです。『ブランドα』に成長するかどうかは企業の取り組み次第です。

「ブランド」が形成される要素は、商品やサービスそれ自体にとどまりません。思いつくままに示します。
商品やサービスそれ自体は、やはり一番重要です。
高価であったり、高級品である必要はありません。品質と価格が見合っていて「信頼感」が共有されていれば「ブランド」です。
「無印良品」は、高級な「ブランドもの」がもてはやされた80年代に、「アンチブランド」としてスタートしました。「アンチ」の対象となった「ブランド」は高価な高級品です。「商標」がつくだけでもてはやされていたもの。
これの「アンチ」として、生活者視点にたった商品作り、主張しない商品デザイン、シンプルな生活の提案というぶれのない商品提供(企業理念、コンセプトの一貫性)により、今では立派な「ブランド」です。
そのほか、企業理念、商品のデザイン、店作り、接客、修理への対応、そして企業の社会貢献などもブランド形成の要素となります。

「ブランド」それ自体は無形の資産であって「知的資産」ですが、その管理は「商標管理」とは大きく異なります。ブランドの管理には、商標部門だけでなく、経営企画、マーケティングなどの部門、そして経営層の協業が必要です。

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
峯 唯夫

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