商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

自己の登録商標を使用していたのに「侵害」
(東京地判 平成25年3月7日 平23(ワ)21532号)

はじめに

今回紹介する事案は、自己の登録商標を使用していたにもかかわらず、「侵害」が成立し、しかも過失の推定が適用されて損害賠償請求が認められた事案です。
近年特許庁における商標の類否判断が甘くなっています。称呼は同一だが、「書体が違う」「図形と結合されている」等の理由で非類似となり、文字の結合商標も原則として一連として判断し、普通名称との結合でさえも非類似とされた例もあります。例えば、指定商品「スピーカー」において先登録商標「未来」と後願「ミライスピーカー」とは非類似(不服2015-13884)。
後願の出願人としては、登録されてよかった、というところでしょうが、決して安心できません。無効審判や裁判所で「類似」「登録無効」と判断される危険性が潜んでいます。

この事案の商標

原告が保有する登録商標は、「豚肉」等を指定商品とする商標「ヨーグルトン」(登録第4722030号)。被告標章1は「ハーブヨーグルトン」、被告標章2は図形との結合です。前者は登録第4920741号、後者は登録第5074465号として登録されていましたが(指定商品に「豚肉」を含む。)、両商標は原告からの無効審判請求により無効が確定し、平成23年3月31日に抹消登録されています。「ハーブ」に識別力がなく、識別力のある要部「ヨーグルトン」が共通するという理由です。峯の感覚からはまっとうな判断です。
判決によれば、被告は、被告標章1、2を平成23年5月まで、商品「豚肉」に使用していました。2件の被告標章は平成18年には登録されていたので、被告は自己の登録商標を安心して使用していたのでしょう。そして、無効が確定して使用を中止したのだと思います。なお、被告に無効審判請求書が送達されたのは22年1月です(INTERMARK書誌情報)。

裁判所の判断

被告は、被告標章1は原告からの異議申立を受けたが登録が維持されたことや、使用開始前に弁理士に調査を依頼して非類似の判断を受けていたこと等、侵害を回避する努力をしていたことなどを主張しましたが、裁判所は、「被告標章1と本件商標は非類似であると判断した別件決定(註:異議決定)を信頼したからといって過失の推定を覆すべき相当な理由があるということはできない。」と判断しました。なお、弁理士による調査については証拠が提出されていないようです。

むすび

特許庁での「甘い判断」。登録になっても、本当に安心できるものではない、という教訓としてご紹介した次第です。

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
峯 唯夫

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