商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

登録商標とその管理の重要性
=普通名称化と商標法26条1項2号適用のポイント=

 今年の春は遅いが、暦通り節分や立春は過ぎた。店頭に並んだ巻き寿司恵方巻を見て(写真参照)、少し前の商標権侵害事件を思い出した。
 高裁迄争われた節分用巻き寿司に使用する「招福巻」を巡る事件である。指定商品加工食料品に係る登録商標「招福巻」を有する原告が、節分用巻き寿司に「招福巻」を使用する被告に対して、商標権侵害として使用の禁止と損害賠償を求めた事案である。
 結論は、「招福巻」は節分用巻き寿司の一般的な名称(巻き寿司の普通名称)であって、登録商標「招福巻」に係る商標権を侵害するものではないとの判決が下された(大阪高裁20(ネ)2836 22.1.22判決)。大阪高裁は、商標権の侵害と認めた原審の大阪地裁判決(大阪地裁19(ワ)7660 20.10.2判決)を取り消した。

 商標法26条は被告の抗弁事由 本件は、商標法26条1項2号事案である。争点は、節分用巻き寿司について「招福巻」はその普通名称か否かで、普通名称と認定されれば商標権の効力は及ばず、侵害とはならない。被告側の抗弁事由で、主張、立証が必要である。
 大阪高裁は、大阪から始まった節分に巻き寿司を食べる風習は近年では広範囲に広がりつつある中で、「招福巻」は、需要者には節分用等で使用される巻き寿司を意味するものと容易に理解される商品名ということができ、そして、現に業界ではそのような多くの使用例があることから、平成17年には巻き寿司の一態様を示す一般名称・普通名称化したと認定した。

 証拠による普通名称化の認定 商標「招福巻」の登録は昭和63年であるが、その後の業界の多くの使用例から普通名称化したと認定したもので、あるスーパーのちらしには、原告の登録商標と並んで、各社の「・・・招福巻」「×××招福巻」と並び記載されていることが特掲されている。この種事案では、各社の店頭表示や広告表示から当該業界内の扱い、認識が認定されるときが多い。節分用巻き寿司の普通名称は恵方巻のみではないのである。

 判断時期は口頭弁論終結時 商標法26条1項2号の判断時期は、当該裁判の口頭弁論終結時である。登録商標の登録時は出所表示機能を有していたとしても、その後の事情により指定商品の普通名称化したときは、商標法26条1項2号が適用されてしまう。登録商標といえども万能ではないのである。特に造語でない登録商標の管理には日ごろから注意を払わなければならない。商標的使用を心掛けるのは当然である。
 原告商標「招福巻」の登録は昭和63年であるが、原告が「招福巻」の使用者に対して警告したのは平成19年からであり、業界での使用開始は同16年頃からで遅すぎたということであろう。恵方巻を目の前にして、またこの事件を思い出した。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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工藤 莞司 先生
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