商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

商標関係の裁判例集の過去と現在
=過去の調査経験から=

 我々商標法の実務家にとっては裁判例の調査、研究は日常的に必須な事柄である。先例調査の外、法の解釈は当然として、私は、事実認定や適用要件への判断を導く論理構成も知りたくて、調査対象としている。現在では、裁判所の裁判例検索システムが充実して、ネットを通じて、様々なターム検索も含めて、裁判例検索、調査が可能となっている。
 私の実務家当初は、裁判所や特許庁刊の判例集の外、出版社刊の判例集、差し替え式の判例集もあり、求めていた。
 ○古関敏正編「不正競業法判例集」(昭和42年商事法務研究会刊)
 ○兼子・染野編「判例工業所有権法」(第一法規差し替え式)
 ○「判例不正競業法」(新日本法規差し替え式)

 これらを中心にして、手捲りして裁判例を調査していた。逐一調査もメリットもあり、
新たな裁判例や稀有な裁判例に出会うこともあった。
 そんな一例が、「保土ヶ谷化学社標事件」判例(最高裁昭和47年(行ツ)第33号 昭和49年4月25日 審決取消訴訟判決集昭和49年443頁)である。商標審査基準解説(初版平成3年・発明協会)執筆中、特許庁編「審決取消訴訟判決集」で出会い、紹介した(詳細は本欄「保土ヶ谷化学社標事件」判例について=別冊ジュリスト判例百選2版登載判例へ」参照)。

「パンヤ事件」(大審院昭和16年(オ)第1180号 昭和17年8月27日 商号並商標使用禁止等請求事件 法律新聞4795号13頁)。
 この裁判例は、法律新聞を捲っていて発見した。法律新聞は、戦前発行のもので、弁護士が明治33(1900)年に創刊し昭和19年迄刊行されて、下級審の裁判例を広く収載し、また大審院判決についても「判決録」「判例集」未登載ものも全文掲載されているとされる。昭和10年施行の不正競争防止法については、戦前においては、裁判例は1件もないとされていた。同法の権威者で、わが国最初の解説書を執筆された小野昌延先生の著作(「註解不正競争防止法」昭和36年有信堂外)にも引用等はない。
 この大審院裁判例については、満田重昭千葉大教授(当時)に解説、紹介して貰った。「大審院の不正競争防止法関係判決―不正競争防止法1条1項1号の「商品の意義」―」(特許研究No14,24頁以下 1992/10)犬も歩けば棒に当たる類の話であった。

 最近、「ダイダラザウルス事件」裁判例を調べようと検索等をしたが、ヒットしないし、前掲判例集にも見当たらない。1970年の大阪万博で、走行中のジェットコースター施設に対し、一個人が商標権をもって使用禁止を求めた事件であったと思う。拙著で要旨を紹介したのを思い出し(石川義雄編「サービスマークの話」昭和60年、78頁東洋法規)、調べると、判決文(大阪地裁昭和45年(ヨ)第1219号 昭和45年5月20日)掲載先(特許ニュース昭和45年6月10日)が判明した。これで入手できると思う。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

メルマガ登録
工藤 莞司 先生
工藤 莞司 先生
バックナンバー
ページTOPへ