商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

商標権者の不正使用取消審判請求の要点について
=商標使用に係る故意等=

 先般、商標法51条の商標権者の不正使用取消審判について検討する機会があった。この審判は請求自体が少なく、年に一桁も前半程度のものである。私も直接的には、1,2度関与したに過ぎない。
 商標権者の不正使用取消審判の趣旨等 この審判は、登録商標の不正使用に対する制裁としての登録の取消審判である。取消要件は、商標権者が、故意に、①指定商品・役務について登録商標と類似の商標、又は②指定商品・役務と類似のものについて登録商標若しくは③類似の商標を使用して、商品・役務との品質等の誤認又は他人の業務に係る出所の混同を生ずるものをしたときである。
 「故意」とは、他人の商標(審判事件では引用商標となる。)等の存在を知って、その他人の業務に係る商品等と混同が生ずることを認識していることをいい、混同させる認識までは必要ないとするのが判例である(「中央救急心事件」昭和56年2月24日 最高裁昭和55年(行ツ)第139号 判例時報996号68頁)。例えば、他人の周知・著名商標(引用商標)の存在を知りながら、自らの登録商標と類似し、かつ、引用商標と類似の商標を使用した場合などである。この場合は、引用商標の存在を知っていたとして、その使用商標が引用商標と同一又は類似であれば、少なくとも故意の存在は推認されることになろう。
 故意がポイント 使用者の故意は主観的な問題で、これを証明する資料は通常存在しないから、この点の主張、立証は困難で、この審判の最大ポイントとなる。その前提として、引用商標の周知・著名商標の立証が必要である。この点、51条の規定にはないが、具体的な混同の虞を問題とする4条1項15号と同じである。引用商標が周知・著名商標であれば、同一のみならず、その類似商標の使用者には故意の存在の推認へと導かれる。

 故意の推認 故意の推認については、4条1項19号の不正の目的の推認基準が参考となる。「・・・①その商標と同一又は極めて類似するものであること、②その周知商標が造語よりなるものであるか又は構成上顕著な特徴を有するものであること」とあり(「商標審査基準」4条1項19号3.(2))、引用商標が造語であり、また引用商標とロゴまで酷似していれば不正の目的と同様に、故意存在への推認へ繋げることは可能となろう。造語商標「SONY」、「ヤクルト」や「クロネコ図形」等と類似商標の使用については、偶然の一致とは考えられない。

 私が直面した審判事案は、この点で主張、立証が困難なものであった。商標の採択においては、既成語、それとも造語を選択するかを改めて知る機会となった。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

メルマガ登録
工藤 莞司 先生
工藤 莞司 先生
バックナンバー
ページTOPへ