商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

寺院、神社と商標法について
商標、商品・役務の該当性の有無

 先般、寺院や神社の名称やこれらが交付する物について、商標法の適用があるか否か調査、検討をする機会があった。既存の文献には解説は見当たらず、以下は私見である。

 商標法は、商標について、「業として商品又は役務の取引について、使用をするもの」と規定している(2条1項)。業には、営利事業の外、非営利事業も含まれる。経済上一定の収支決算の上に立っている学校や病院、文化事業も後者に該当して、そこで使用される標章は商標として、商標法の保護対象とされている。

 寺院や神社の宗教活動が前掲非営利事業に該当するかについては、不正競争防止法の次の最高裁判例は、明確に否定している。「宗教法人の活動についてみるに,宗教儀礼の執行や教義の普及伝道活動等の本来的な宗教活動に関しては,営業の自由の保障の下で自由競争が行われる取引社会を前提とするものではなく,不正競争防止法の対象とする競争秩序の維持を観念することはできないものであるから,取引社会における事業活動と評価することはできず,同法の適用の対象外であると解するのが相当である。また,それ自体を取り上げれば収益事業と認められるものであっても,教義の普及伝道のために行われる出版,講演等本来的な宗教活動と密接不可分の関係にあると認められる事業についても,本来的な宗教活動と切り離してこれと別異に取り扱うことは適切でないから,同法の適用の対象外であると解するのが相当である。」(「天理教豊文教会事件」平成18年1月20日 最高裁平成17年(受)第575号 民集60巻1号137頁)。商標法でも同様に解すべきと思う。
 寺院や神社が参拝者へ提供する祈祷行為やお札、お守りの交付行為は、商取引ではないことは明らかであろう。一定の支払いはあっても、取引の対価の関係にはないもので、むしろお布施の類に相当するものであろう。
 そうとすれば、寺院や神社の名称は、商標ではなく、商標法の保護の対象ではないことになる。そして、寺院や神社が交付するお札やお守りも、商標法上の商品や役務提供に係る物でもないのである。
 処が、商品区分21類に、「お守り、お神籤」が分類されているが、これは、お守りの製造業者の製造標や門前の土産店の販売標のためのものと考えられる。

 なお、寺院等が商標権を取得している例が散見されるようであるが、前掲判例や商標法の解釈からすれば、これらは業として商標を使用する者とは言えないので、本来的には、商標法3条1項柱書き違反の問題が残る(幼稚園事業等は別)。その商標権の行使の場合は、前掲違反の無効理由の存在が浮かび上がり、権利行使の制限規定(39条・特許法104条の3)や権利濫用が問題になろう。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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