商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

結合商標の類否について
最近の自らの経験例「総本家駿河屋」と「駿河屋」の類否から

結合商標の類否問題
 結合商標の類否については、特に最近問題とされ、研究のテーマとされ、様々な文献や講演会でも取り上げられている。私も、裁判例から傾向を読み取り、方向性を見出そうとしている(拙稿「新・商標の類似に関する裁判例と最高裁判例」渋谷教授追悼論文集345頁以下)。そんな中、自ら代理人として、審決では非類似、知財高裁判決では類似と判断した事案に関与して、真正面から取り組む経験をした。事案は4条1項11号違反とする無効審判事件で、指定商品「最中」とする本件商標「総本家駿河屋」と同「羊羹」に係る引用商標「駿河屋」との類否である。

審決
 審決は(令和元年7月18日 無効審判2017-890044)、本件商標「総本家駿河屋」の構成文字は、同書、同大、同間隔で、外観上、まとまりよく一体的に表されており、「ソウホンケスルガヤ」の称呼も、無理なく一連に称呼できるものである。そして、その構成文字全体をもってひとつの店舗の名称を表したものとして、取引者、需要者に理解されるといえるとして、引用商標とは、非類似と判断した。

判決
 これに対して、判決では(令和2年3月11日 知財高裁令和元年(行ケ)第10111号)、本件商標は、「総本家」と「駿河屋」とからなる結合商標である。本件商標の構成文字は、外観上、同書、同大、同間隔で表示されており、「ソウホンケスルガヤ」の称呼も生じるが、一方で、前記認定のとおり、「駿河屋」の商標は、近畿地方を中心に 旧駿河屋又はその分家等が取り扱う和菓子(特に、羊羹)を表示するブランド名として全国的にも相当程度認識されていたと認められるのに対し、「総本家」は、「多くの分家の分かれ出たもとの家。おおもとの本家。」を意味する普通名詞であることに照らすと、「総本家」と「駿河屋」とは、分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているとは認められない。本件商標がその指定商品に使用された場合、「駿河屋」が取引者、需要者に対し、上記商品の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる。そうすると、本件商標の構成中「駿河屋」を要部として抽出し、これと引用商標1及び2とを比較して商標の類否を判断することも、許されるというべきである。

私見
 類否判断の前提として、本件商標「総本家駿河屋」の観察と認定が180度違った。ともに、「総本家」については辞書搭載の普通名詞としながらも、審決は、これを根拠に、一体不可分の店舗名と認定した。判決では、「総本家・・・」からなる結合商標として、要部観察をしている。これで、類否判断の結論は逆になり、審決は取り消された。
 審決では、商標として、すなわち指定商品の識別標識として本件商標を観察していない。本件商標「総本家駿河屋」は「駿河屋」に識別機能があり、要部を抽出して類否判断をする事案である。取引の経験則から導かれ、商標の機能からの判断で、「商標審査基準」でも同様である(同基準4条1項11号4.(1)(ア)、(ウ))。審決は、少し前の知財高裁の判断傾向を今なお引きづっているのかもしれないが、本件商標は明らかな要部観察事例商標である。
 知財高裁判決は、要部観察をしているが、「駿河屋」について、周知著名性を求めている。その理由は、引用のセイコーアイ事件判例(平成5年9月10日 最高裁平成3年(行ツ)第103号 民集47巻7号5009頁)の支配的部分には周知著名性を要すると解していると思われることと、審決が、傍論で、「駿河屋」部分に著名性がないとして、請求人主張を斥けたことに配慮したものと思われる。
しかし、「総本家」の意味と取引上の使用例から、「駿河屋」部分が支配的部分で識別機能が強く、周知著名性を要しない例である。「総本家」からは称呼、観念は生じず、判例に沿う。セイコーアイ事件判例がいう支配的部分については著名性を要するとする見方がないではないようだが、最近の知財高裁裁判例でも、著名性とは無関係に要部乃至分離観察をして、類似と判断している例も多い(「ゲンコツコロッケ事件」平成30年3月7日 平成29年(行ケ)第10169号、「BULK AAA事件」平成31年3月7日 平成30年(行ケ)第10141号外)。相対的に識別機能が強ければ足りる筈である。
 ともあれ、本件事案のような過誤登録は、本来的な役割から無効審判で見直されるべきで、それが審決取消訴訟迄いかないと是正されないのでは、時間と費用の点からも問題が残る。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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