商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

商標法4条1項8号の著名な略称等について
=周知・著名商標との違い=

 意義、程度 先般、商標法4条1項8号の著名な略称や同6号の著名な標章についての議論の中で、周知・著名商標との異同を問われた。この点、以前から混乱があると思っていたので、整理、まとめてみた。略称や標章の著名性には、どの程度の周知や認知度を言うのかが問題である。8号の著名については、全国的な周知を要すると解した東京高裁の裁判例がありこれを最高裁も支持したため(「月の友事件」東京高裁昭和53年(行ケ)第216号 昭和56年11月5日 無体裁集13巻2号793頁)、これを8号の著名の基準とする見解がある。しかしながら、8号において、略称等に著名性を要するとしたのは、人格的利益保護の趣旨から恣意的な略称等を保護範囲から制限するためであり、これについて常に全国的な周知性を要すると解するのは疑問である。地域的範囲を問題とする見解もあるが、6号や8号の規定は商品や役務の取引や流通範囲とは無関係である。
 他方、周知・著名商標とは実務上の用語で、商標法上は「需要者間に広く認識されている商標」と規定している(4条1項10号、64条等)。この中で周知度が高い商標を、著名商標(全国的周知を要するとする見解もある。)と呼ぶことは定着しているが、これと同じではないことは明らかである。

 国際自由学園事件判例 国際自由学園事件判例(最高裁平成16年(行ヒ)第343号 平成17年7月22日 裁判集民事217号595頁)は、8号について、「略称が本人を指し示すものとして一般に受け入れられているか否かを基準として判断すべき」とした。氏名や名称と同等のものとして世間一般に通用している略称と解され、人格権の保護規定としては、素直な解釈で、商標の周知・著名とは別次元のものを前提としている。しかしその認定基準が明らかではない。「国際自由学園事件」差戻し判決では、『原告は、大正10年の設立以来、原告略称を教育及びこれに関連する役務に長期間にわたり使用し続け、本件出願時を経て本件審決時に至るまでの間、各種の書籍、新聞、雑誌、テレビ等で度々取り上げられてきており、これらにおいては、原告を示す名称として原告略称が用いられてきたのであるから、原告略称は原告を指し示すものとして一般に受けいれていたものと認めることができ、・・・原告略称は原告の名称の「著名な略称」であった。』(知財高裁平成17年(行ケ)第10613号 平成17年12月27日)とし今一はっきりしないが、周知・著名商標とは異なり、指定商品や役務とは関係なしに、著名性を認定すべきことは明らかになった。

 私見等 本来の意味として著名とは、「名がよく知られていること」(広辞苑3版1583頁)で、有力な見解として、『略称は、ある程度それが特定の者を指すものとして機能しているのでなければ、ここで保護する必要もなく、したがって、世人に認められているものでなければならない。その程度を4条1項8号では、「著名」の程度としたものであり、いわゆる恣意的なものを含まないとする趣旨』(石川義雄「商標法4条1項8号と株式会社の商号」判例特許訴訟法659頁)がある。これらから8号の著名を「一般社会において、氏名や名称と同等のものとして、本人を特定できる程度の認知度」と解し、6号の著名な標章についても同様としたら、職権審査においては、適用範囲が広すぎることになろうか。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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