商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

登録商標と普通名称化
=米国「グーグル」事件とわが国商標法=

 先日、米国で、米国グーグル社の商標「グーグル」について、普通名称化が争われたが、サンフランシスコ連邦高裁は、普通名称化を否定したと報道された(2017.5.18日経新聞)。記事によれば、「グーグルで検索する」という意味だけではなく、「検索する」自体を示す動詞としての使用が増えていることから事件になったようである。

わが国商標では抗弁事由 登録商標の普通名称化はわが国でもあり得、侵害訴訟で問題とされるときがある。商標権者が無断使用している相手方に侵害訴訟を提起した場合、相手方は、自己の使用は商品又は役務の普通名称の使用であるから商標権の効力は及ばないと抗弁することができる(商標法26条1項2号)。この抗弁は、普通名称が誤って登録された場合のみならず、登録後に普通名称化したときも、認められる。判断時点が、侵害訴訟の口頭弁論終結時だからである。

招福巻きは普通名称化 わが国の最近の例では、登録商標「招福巻」( 第2033007号 昭和63年3月30日登録)は巻き寿司の普通名称になったとした裁判例(大阪高裁平成20年(ネ)第2836号 平成22年1月22日)がある。『26条1項2号(普通名称)該当性について 遅くとも平成17年以降は極めて多くのスーパーマーケット等で「招福巻」の商品名が用いられていることが認められる上,同じ頃頒布されたと思料される阪急百貨店の広告チラシ(乙3の2の1)中では,被控訴人の商品(小鯛雀鮨「すし萬」招福巻)と並んで「京都・嵐山「錦味」錦の招福巻」や「「大善」穴子招福巻」が並記されていることからも,・・・,それより早い平成16年の時点で全国に極めて多くの店舗を展開するダイエーのチラシに「招福巻」なる名称の巻き寿司の商品広告が掲載されたことも,それ以前から「招福巻」が節分用巻き寿司の名称として一般化していたことを推認せしめるものといえる。したがって,「招福巻」は,巻き寿司の一態様を示す商品名として,遅くとも平成17年には普通名称となっていたというべきである。』

業界での普通名称化がポイント 訴訟では、相手方・被告が、その業界の取引者、需要者間において、普通名称に至っている事実を、証拠をもって証明しなければならず、簡単ではない。注意を要するのは、その業界の取引者、需要者間においての普通名称化であって、一般消費者間ではないということである。一般消費者が普通名称的に使用、認識していても、業界では特定者の商標として通用していることは屡々ある。例えば、登録商標「ホカロン」や同「ゴキブリホイホイ」、同「万歩計」のように先駆的商品で、その商品を指称する一般的な名称がないため、当初はこの傾向があるが、その業界では立派な登録商標として理解されている。前掲「グーグル」事件においても、競合する検索運営会社米国マイクロソフトや米国ヤフーでは、「ググる」とは使用していないことをも判断基準としたようである。
 以上のように、わが国では、欧米諸国のような登録後の普通名称化による取消制度はなく、侵害訴訟での抗弁事由である。取引実情に基づく必要に応じた当事者間の個別具体的な攻防の中で、品質表示化等を含めて判断されるもので、合理性があろう。

 因みに、登録商標の普通名称化は、商標管理の問題である。先ずは、商標の採択は、使用する商品や役務に関係するような既成語は避けて造語とし、登録後は、登録商標であることを付記し、そして商標的使用に徹することである。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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