商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

出所の混同の虞のある商標
=パロディ商標との関係=

 商標法4条1項15号は、他人の業務に係る商品・役務と混同の虞のある商標は登録しない旨規定している。出所の混同を生ずる虞のある商標は、需要者を混同させることとなるのみならず、商標の本質的な機能自他の識別機能を減殺して商標使用者の信用を害し、さらには取引秩序を乱すものである。

出所の混同とその内容 出所の混同とは、他人の商標等の関係で、出願商標をその指定商品・役務について使用するとき、該他人とは無関係であるにもかかわらず、商標の類似その他の連想作用等により、その他人の製造、販売に係る商品又は提供に係る役務の如く、その出所について、需要者に対して、誤認、混同を生じさせることをいう。そして、実際の混同迄は必要なく、虞でも該当する。
 15号に規定する出所の混同の虞については、一の者対一の者との間で生ずる混同の虞(狭義の混同)のみならず、周知・著名商標主及びその者と一定の関係を有する者(子会社やグループ会社等)との間でも生ずる混同の虞についても適用する広義の混同の理論が採用されている(「レール・デュタン事件」平成12年7月11日 最高裁平成10年(行ヒ)第85号 民集54巻6号1848頁)。出所の混同の虞は、商標が同一又は類似で、使用商品・役務が同一又は類似の場合に典型的に生ずるが、この場合4条1項10号ないし11号等に該当するので、それら以外で混同の虞があるのは、商標が同一又は類似で、使用商品・役務が非類似でも一方の商標が周知・著名であるときに生じ得ることから、15号は「他人の商標」等が周知・著名であるとき適用される。特に広義の混同では著名商標に対するダイリュージョンやフリーライドからの防止規定としても、機能する。

商標とパロディ事件 パロディとは、著作権法上問題となる概念で、「現存の著名な著作物の作品の文体・作風などを変更し、風刺化、滑稽化した作品をいう。」(丸善「知的財産権辞典」85頁)とされる。著作権法には規定はなく、ある見解によれば、著作権法32条に規定する引用の範囲内であれば許され、範囲外であれば翻案権や同一性保持権が問題とされるという。商標法分野においても、使用商品等が指定商品に同一又は類似で他人の登録商標と類似する範囲内、また混同の虞のある範囲内であれば、パロディに係る商標登録は阻止され(4条1項11号、15号、19号)、登録商標及び指定商品等と同一又は類似の範囲内であれば侵害となる(25条、37条1号)。不正競争防止法上の周知表示混同惹起行為や著名表示冒用行為についても、保護を求める側の商標が周知・著名性を条件として、類似や混同の虞も必要である(不2条1項1、2号)。

 パロディ商標が審決取消訴訟で争われたことがある。対象となった引用登録商標は、スポーツ用品等で著名な登録商標(右掲図、出願商標は左掲図)である。特許庁は、両商標に係る商品においては混同の虞があるとして4条1項15号を適用して登録を取り消す異議決定をし、知財高裁も、異議決定を支持した(「KUMA事件」平成25年6月27日 知財高裁平成24年(行ケ)第10454号)。

 なお、パロディ商標として騒がれた「フランク三浦事件」は、登録無効審判事件で、登録後の使用は判断の対象外であり、それで知財高裁は4条1項15号等には該当しないと判断したもので(平成28年4月12日 知財高裁平成27年(行ケ)第10219号)、パロディ的使用を認めたものではない。登録後の変更使用は、商標法では、不正使用取消審判の問題である(51条)。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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