商標・知財コラム:一橋大学名誉教授 弁護士 土肥 一史 先生

ぶりとハマチ

 雑煮の具は、豪華なものから質素なものまで、地域によってさまざまである。博多の雑煮は,鶏肉やぶりにかつお菜をいれる。このぶり,ハマチともいい,成長度によって呼び名が変わる出世魚である。

 知財の世界でも,同じものであるが,呼び名が異なるものがある。著作権法で規定されている技術的保護手段と技術的利用制限手段,さらには不正競争防止法に規定されている技術的制限手段が,それである。これらは,WCT,WPPT,ACTAそしてTPP11という条約や協定に規定されている「技術的手段:Technological Measures」に他ならない。この技術的手段は,ベルヌ条約やWCT及びWPPTが認める権利の行使に関して,権利者がコンテンツに用いたものであり,第三者がこの手段を無断で回避しないように,法的に対応するよう加盟国に求めたものである。レンタルショップで借りたDVDやヴィデオをコピーしようとしてもできなくなっている,あのセキュリティ技術がその例である。

 この技術的手段は,ベルヌ条約やWCT及びWPPTが認める権利の行使に関して設けられるものであるから,著作物性のない映像や,存続期間が満了した著作物に設けることはできない理屈となる。しかし,著作権保護に限定することはコンテンツ事業の将来的な発展に沿わないことから,それを超えた保護制度が設けられた。コピーコントロールのみならず、アクセスコントロールを可能にする法制度である。その結果,コピーコントロールは著作権法で技術的保護手段として刑事罰を,アクセスコントロールは不正競争防止法で技術的制限手段として民事罰を設けた。25年前のことである。2年余り前にTPP11が発効したが,その前提として,著作権法においてもアクセスコントロールに関する保護の強化が求められ,この結果生まれたのが,技術的利用制限手段である。

 25年前と異なり,現在では,不正競争防止法に定める技術的制限手段も民事罰及び刑事罰が規定され,著作権法における技術的保護手段及び技術的利用制限手段においても民事罰と刑事罰が規定されている。本来1つの技術的手段であるが,定義はバラバラであることに加え,刑事罰もバラバラになっている。しかも著作権侵害を伴う方が3年以下の懲役300万円以下の罰金であるのに,権利侵害を伴わない技術的制限手段の方は5年以下の懲役,500万円以下の罰金と、より重くなりバランスを失する結果になっている。こうした結果の不都合が発生しないように、裁判所に期待するというのでは、国民は戸惑う他ない。経産省知的財産政策室と文化庁の協働的な連携とともに、内閣法制局の法案審査への目配りを隅々まで望みたい。

一橋大学名誉教授 弁護士
土肥 一史

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