商標・知財コラム:一橋大学名誉教授 弁護士 土肥 一史 先生

官公庁のシンボルマーク

 「サプリメントの広告に厚生労働省のシンボルマークなどを無断で使ったとして,著作権法違反容疑で逮捕されたサプリ販売会社従業員の男性(30)について,東京地検は28日,不起訴処分とした。地検は処分の理由を明らかにしていない。男性は2017年~18年,シンボルマークなどをインターネット上で無断使用したとして警視庁に逮捕されていた(2019年6月29日日経朝刊)。」

 この記事を読んだ当初、機能性表示食品の広告に厚生労働省のシンボルマークの無断使用がされたにせよ、著作権侵害を理由とするのかとまず驚いた。その際に想像したのは、サプリメントの広告に特定保健用食品(トクホ)マークを無断で使用したことかと思ったからである。ただ、そうすると、トクホのマークは内閣府に属する消費者庁が管理するものであるから、この点で整合しない。しらべてみると、この記事でいうシンボルマークは、厚生労働省のそれをいい、青色と赤色をした人形(ひとがた)が背伸び(あるいはバンザイ)をしながらハートをかたち作っているあのマークであった。

 官公庁のシンボルマークの無断使用が摘発されたのは全国初のケースということらしい。官公庁のシンボルマークは著名であれば、消極的登録要件の1つであるから、他人が無断でこの図形を商標登録できない。一般に官公庁では、そのシンボルマークについて使用規定が設けられており、当該官公庁とその職員以外の第三者は使用が原則禁止される。例外的に許される場合でも、使用に当たって一定の手続の下に広報室長等の許可が必要とされている。もっとも、この許可を受けることなく使用しても刑事上格別ペナルティはなさそうであり、その結果が冒頭の著作権法違反容疑につながったようである。

 トクホマークの無断使用の場合は、特別用途表示の無断使用として50万円以下の罰金に処せられ、従業員の違法行為には法人も処罰される。さりながら商標権侵害罪の10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらの併科の場合と比べると格段に軽い。また,景表法上の優良誤認表示となるとしても,直罰はない。いわゆる商標5庁の中で、わが国だけが証明商標制度を置かず、間接証明商標としての団体商標で事足りるとしている結果でもある。

 官公庁のシンボルマークについては、当該官公庁が商標登録出願することはできる。官公庁のシンボルマークで「くまモン」程度に著名なものもなさそうであるし,仮に登録したにしても官公庁自身の使用しかできないとなれば実用性も限定的だったろう。しかし,令和元年5月成立・施行された法改正によりライセンスができることになった。対一般消費者へのサービスに係わる官公庁は、この機に商標登録を検討してはどうか。商標的使用論の立場から、無用論が出るかもしれないが。

一橋大学名誉教授 弁護士
土肥 一史

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