商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

「ルイ・ヴィトン」標章不競法事件
(知財高裁平成30年10月23日判決。
 原審:東京地裁平成30年3月26日判決)

事案の紹介
原告(被控訴人。以下「原告」という。)であるルイ・ヴィトンが、自社の中古品を購入してその一部(標章部分)を利用したいわゆる「リメイク品」を販売していた被告(被控訴人。以下「被告」という。)に対して、商標権侵害及び不正競争行為を理由として損害賠償を求め、原審、控訴審ともに被告の行為が不正競争防止法2条1項2号に該当すると判断し、原告の損害賠償請求を認めた事案である。
商標権侵害については判断されていない。

裁判所の判断の概要
裁判所は、不正競争防止法2条1項2号の該当性を以下の通り判断している。
(1) 商品等表示該当性
 被告は、デザインであって商品等表示ではないと主張したが、裁判所は以下のように説示して被告の主張を排斥した。
 原告標章が著名性を有するため、高い出所識別機能を有する商品等表示として使用されており、その使用態様も共通しているとした上で、被告標章が原告標章と同一の記号(筆者註:モノグラム等)で構成され、その配置も同一であることなどを理由に、被告の表示は商品等表示に該当すると判断した。

(2) 標章の類似性
 裁判所は、不正競争防止法2条1項2号の「類似」に該当するかは、「取引の実情の下において、需要者又は取引者が、両者の外観、称呼又は観念に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体的に類似のものと受け取るおそれがあるか否かを基準に判断すべき」と説示し、被告標章が原告標章と同一の記号が同一の配置で表示されていることから、「一般の需要者が外観に基づく印象として、全体的に両者を類似のものと受け取るおそれがあると認められる」と判断した。

(3) 混同について
 被告は、被告各商品が『JUNKMANIA』とのウェブページにおいて、『REMAKE』や『CUSTOM』との表示とともに販売されており、いかなる取引者・需要者も被告商品を原告商品と混同するおそれはない旨を主張したが、裁判所は、不正競争防止法2条1項1号においては、混同が発生する可能性の有無が重視されるべきであるが、同項2号においては、「著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し、稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か、すなわち、容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものである」と説示して「混同不存在」の主張を排斥した。

(4) 無形損害
 裁判所は、不正競争防止法5条2項による損害額(約108万円)を認めるほか、無形損害50万円を認めた。
 その理由として、原告は、その標章が著名であるばかりか,偽造品対策、品質管理に取り組み、知的財産の保護管理にも力を入れていること、そして被告商品は粗雑な品質であることを指摘した上で、「そうすると,被告による不正競争行為は,原告が長年の企業努力により獲得した原告標章の著名性及びそれにより得られる顧客誘引力を不当に利用して利得するものであり,原告の企業努力の成果を実質的に減殺するものであるから,需要者の原告商品又は原告標章に対する信用や価値が毀損され,原告は無形の損害を被ったものと認められる。」と説示した。

雑感
(1) なぜ商標権ではなく不競法から検討したのか
 この判決の特徴は、原告標章を複数の記号に分けて取り上げ、各記号の配置を検討しているところにある。 原告商標権である登録第1546254号及び登録第1569597は複数の記号で構成されたものである。商標権で考えた場合、被告標章において原告の登録商標を特定しなければならないであろう(被告は主張していないが。)。 また、被告商品「帽子」に登録商標の全てが表されているとはいえない。
 このような「商標」特定の問題に加えて、「混同のおそれ」の有無も問題となる。
 そこで、不正競争防止法の該当性について判断したものと思われる。

被告商品
  

登録商標

(2) 不正競争防止法2条1項1号と2号
 2号を1号と対比すると、「著名性」が要求されることと「混同」が要件とされていないことに違いがある。裁判所が説示するとおり、2号は「著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し、稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示」の使用を禁止するものであるから、本件では「混同」の要件を判断する必要のない2号で処理されたものと思われる。

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
峯 唯夫

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