商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

意匠法改正議論と立体商標

■ 「デザイン経営」宣言
経済産業省・特許庁は、本年5月23日、「産業競争力とデザインを考える会」の報告書として、「『デザイン経営』宣言」を発表しました。
http://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002-1.pdf
この報告書では、デザインを活用した「デザイン経営」は「ブランド力向上」と「イノベーション力向上」をもたらし、産業競争力の強化につながる、と提言しています。
これを受けて、特許庁では意匠法の改正に向けて動き、来年の通常国会で改正法を成立させる予定とされています。 主な検討項目は以下のものです。
 ① 画像デザインの保護の拡大
 ② 店舗デザインなどの空間デザインの保護
 ③ 関連意匠制度の拡充
 ④ 意匠権の存続期間の延長
(「意匠制度見直しの検討課題」http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/shingikai/pdf/isyounew06/03.pdf

この中で②の店舗デザインについては、以下の商標登録(立体商標)もありますが、意匠として、インテリアも含めて保護してはどうか、という議論です。

  商標登録第5916693号
  小売りを含む第35類 他
  商標権者:カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社 他

■ 「関連意匠制度の拡充」「意匠権の存続期間の延長」と「立体商標」
関連意匠制度の拡充とは、関連意匠の登録要件を緩和してはどうか、ということです。ブランド作りのためにデザインを統一しようとする場合、同じデザインを続けるのではなく、同じイメージを維持しつつもデザインは変化します。今の意匠法では、

・本意匠(基礎となる意匠)に類似する意匠は「関連意匠」として登録されるが、「関連意匠」にのみ類似する意匠は登録できない。
・「新規性」がなければ登録されないので、自己の意匠によって拒絶される。
・たとえ「基礎となる意匠」を続けていても、意匠登録後20年で意匠権が消滅してしまい、その後は意匠権としての保護がなくなる。

という問題が指摘されています。
これらの問題の根っこは、「ブランドを表示するアイコン」を意匠で保護したい、ということであり、「意匠法の趣旨」とずれていると思います。。創作を保護することが意匠法の役目です。「ブランドを表示するアイコン」は「商標」であり、その保護は商標法(立体商標)が果たすべき仕事ではないでしょうか。

■ 「立体商標」「位置商標」ではだめなのか
おそらく、だめだという認識なのでしょう。
ネックは、「同じイメージを持ちつつ『バリエーションがある』」という点です。
商品の形状そのものを立体商標、位置商標として出願した場合、3条2項の適用を受けなければ登録されません。それはよいとして、3条2項の適用においては「同一性」が厳格に判断されています。そのために、「同じイメージの形状」を長年使用しているとしても、「同一性」が否認されてしまう場合が多いでしょう。
多くの人が「BMWの車」と認識するであろう「キドニーグリル」も、時代による変化もあれば、同時期であっても車種により形状は異なります。今の審査においては「同一性」が否定され、登録は困難なのではないかと思います。

■ 「同一性」の緩和
商標法3条2項は、「識別力がない」と考えられる「文字や立体的形状」を、需要者が「識別力がある」と考えるときには登録する、という趣旨の規定です。この判断において「同一性」をどう考えるのか。
物理的に「同一」の表示を使い続ければ分かりやすいでしょうが、判断の基準は「物理的な同一」ではなく、需要者が識別標識として「同じもの」と認識するかどうかであるはずだと思います。
「コカコーラのボトル」事件では若干の緩和が見られていますが、事案に即して緩やかに判断する必要があると思います。

■ 商標法が対応してくれれば意匠法が変わる必要はない
「同じイメージを持ちつつもバリエーションがある」立体的形状を「意匠法」で保護して欲しい、という要求は、商標法が「同一性」の認定を緩和すれば解消すると思う次第。
創作を保護する意匠法が、「ブランド保護」のために変節して欲しくない。
商標法、何とかしてくれませんか。運用の変更で対応できると思います。

 

特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士
峯 唯夫

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