商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

並行輸入における「品質の同一性」

久しぶりに並行輸入に関する判決が出されたので、そのさわりを紹介します。
・東京地判 平成28年10月20日 平成28(ワ)10643
・知財高判 平成30年 2月 7日 平28(ネ)10104
   商標「NEONERO」

■ 事案の概要
 本件は,並行輸入として違法性が阻却されるか否かが争点であった。
 原判決は,並行輸入による商標権侵害の違法性阻却事由に該当しないとして,原告の請求が認容されたが、控訴審では並行輸入に該当するとされた。
 判断の分かれ目の一つが、品質の同一性である。フレッドペリー最高裁判決は、並行輸入が違法性を欠く要件として品質の同一性を掲げ、次のように述べている。
「我が国の商標権者が直接的に又は間接的に当該商品の品質管理を行い得る立場にあることから,当該商品と我が国の商標権者が登録商標を付した商品とが当該登録商標の保証する品質において実質的に差異がないと評価される場合」
 本件の特徴は、商品の「見かけが違う」が「主要部が同じ」という点である。
 なお、最高裁判決で示された並行輸入が違法性を阻却されるための要件は3つあり、上掲以外の要件は以下の通りである。
(1) 当該商標が外国における商標権者又は当該商標権者から使用許諾を受けた者により適法に付されたものであること。
(2) 当該外国における商標権者と我が国の商標権者とが同一人であるか又は法律的若しくは経済的に同一人と同視し得るような関係があることにより,当該商標が我が国の登録商標と同一の出所を表示するものであること。

■ 注文方法
 イタリアのPVZ社(商品の製造販売元であり、原告はその日本における独占的な販売代理店である。)と原告との取引(注文方法)は、以下のようなものであった(控訴審判決による。)。
 原告は,PVZ社から受領したデザイン帖や,PVZ社が展示会に持参した展示品等(筆者註:ネックレスの本体部分をイメージしてください)を元に,約15%はそのまま,約85%は修正を加えて注文する。修正を加える場合には,PVZ社がデザインして作成した。
 原告は,PVZ社から輸入したペンダントトップには,別途原告が調達したネックレスを付し,PVZ社から輸入したイヤリングには,日本製シリコンパーツの付いたイヤリング部品を付し,PVZ社から輸入したネックレスにはピコ引き輪(原告が開発した,引く突起を大きくし,装飾玉を付けた引き輪)とジョイントの丸カンを付すなどして完成品とする。
 原告は、この事実を根拠に、原告商品は自己が管理しているものであり、原告の管理が及ばない被告商品との同一性を否認する主張を行った。

■ 原審の判断
 原審は次のように認定し、並行輸入には該当しないものと判断した。
 ①本件商標の商標権者である原告の販売する商品の多くは原告の定めた仕様によっている上,PVZ社製以外の部品を組み合わせた商品もあるから,原告商品のほとんどはPVZ社が本件ブランド名で原告以外に販売する商品とは異なること,②被告が販売する商品には被告独自の仕様が含まれており,その仕様は,原告の仕様とは異なるもので,かつ,原告を通さずに被告からPVZ社に伝えられること,以上のことが明らかである。また,身飾品という商品の性質上,部品の組合せ方,用いられる金具等が異なるときは品質が同一であるとはいえないと解される。そうすると,被告商品の品質管理に原告が直接的又は間接的に関与する余地はなく,被告商品と原告商品の品質に差異がないということはできない。したがって,被告による販売行為がいわゆる真正商品の並行輸入として商標権侵害の実質的な違法性を欠くとは認められない。

■ 控訴審の判断
 控訴審は、並行輸入に該当するものと判断した。
 フレッドペリー最高裁判決における上掲の要件は,「我が国の商標権者の品質管理可能性についていうものであるところ,外国の商標権者と我が国の商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合には,原則として,外国の商標権者の品質管理可能性と我が国の商標権者の品質管理可能性は同一に帰すべきものであるといえる。ただし,外国の商標権者と我が国の商標権者とが法律的又は経済的に同一視できる場合であっても,我が国の商標権の独占権能を活用して,自己の出所に係る商品独自の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるにもかかわらず,外国における商標権者の出所に係る商品が輸入されることによって,そのような品質又は信用を害する結果が生じたといえるような場合には,この利益は保護に値するということができる。」(筆者註:「ただし」に該当する場合は上掲の要件を満たさず、並行輸入には当たらないことになる。)と一般論の述べた上で、被控訴人に「ただし」以下の事情が認められるかを検討した。

 「被控訴人(原審原告)が,PVZ社パーツの組合せや鎖の長さなどを指定し,引き輪やイヤリングのパーツを取り付けたことは認められるものの,引き輪やイヤリングのパーツは身体を飾るという被控訴人商品の主たる機能からみて付随的な部分にすぎない。被控訴人のウェブサイトには,PVZ社作成の画像及びPVZ社が使用するのと同じ本件ブランドのロゴが用いられ,PVZ社パーツのレース状の模様は明確に認識できるが,被控訴人が独自に付したパーツが強調されている部分はなく,また,PVZ社パーツのレース状の細工以外のデザインが良いことや,引き輪やイヤリングのパーツが使用しやすいといったことは,上記ウェブサイトには記載されておらず,このような事項が需要者に認識されていたとは認められない。(等と認定し、)これらの事情を総合考慮すると,被控訴人が,PVZ社とは独自に,被控訴人の商品の品質又は信用の維持を図ってきたという実績があるとまで認めることはできず,控訴人商品の輸入や本件被疑侵害行為によって,被控訴人の商品の品質又は信用を害する結果が生じたということはできない。したがって,被控訴人に保護に値する利益があるということはできない。」

 控訴審では「品質の同一性」が認められ、その他の要件も満たすものとして並行輸入と認定されたが、原審と控訴審において原被告双方の発注方法についての認定は同じようである。異なる結論に至った理由は、商標権者による品質の管理の評価にあるようである。原審では、行為それ自体だけを評価し、控訴審では行為の結果として商品がどのようなものとして需要者に認識されているか、までを評価の対象としている。
 単にあてはめの問題としてかたづけることのできない見解の相違があるように思われる。


NEONERO商品の例
出典:商標権者HP( http://neonero.jp/

 

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