商標・知財コラム:特許業務法人レガート知財事務所 所長・弁理士 峯 唯夫 先生

映画「沈黙」がふたつ

先日、映画「沈黙‐サイレンス‐」(監督:マーティン・スコセッシ)が公開され、初日に見てきました。偶然にも、翌週、地元の早稲田松竹で篠田正浩監督の「沈黙 SILENCE」(1971年) が上映されており、仕事を抜け出してみてきました。
二つの「沈黙」を比較してみることができ、「なぜ受け入れられないのか」という前者の視点と、「受け入れるわけにはいかないのだ」という後者の視点の違いをまざまざと実感することができました。

さて、この事例を商標に落とし込むと、もし、篠田作品の著作者・東宝が「映画の上映」などの映画関連の役務について商標「沈黙」を登録していたらどうなっていたか、ということです。私は映画のタイトル名に商標権の効力が及ぶとは考えていませんが、新聞ネタとしては、一悶着あってもおかしくないとは思います。

こんなことを契機に、同じ題名の小説と映画を検索してみました。結構あるものです。以下、3作以上のものを掲記します。

(小説のタイトル)
「恐怖の報酬」(赤川次郎/笹沢佐保/ジョン・ミナハン)
「星に願いを」(重松清/林真理子/村山早紀)
「ヘヴンリー・ブルー」(村山由佳/嶋田まな海/夏水奏奈)
「女の一生」(モーパッサン/山本有三/遠藤周作)
「みずうみ」(川端康成/いしいしんじ/よしもとばなな)
出典:Yahoo!知恵袋
http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1288513762
 

学生時代「話の特集」という雑誌に伊丹十三さんが「人生劇場」という小説を掲載していたところ、尾崎士郎の遺族からクレームを受けて「人世劇場」に変更したことがあり、知的財産とは無縁であった私は、「ふ~ん、そういうもんなんだ」と思った記憶がありますが、「そういうもの」ではないのですよね。

とはいうものの、「父よ!母よ!」事件(東京地裁 平成7年(ワ)第11117号)は、留意すべきでしょう。「文芸作品の題名は作者の苦心の所産であり,独創性の高いものも数多い。こうした作者の苦心や独創性は尊重されるべきであるが,題名を定める表現の自由も確保されなければならない。既存作品の題名が独創性が高く,その作品の評価が定まっており,その作品の名声に便乗したり,冒瀆したり,作者の感情を傷つける場合は,既存作品と同一題名を用いることは,避けることが望ましい。」という日本文芸家協会の見解を評価しつつも、 「「父よ」「母よ」という使用頻度の高いシンプルで重要な言葉を組み合わせたものであり、その意味で題号そのものとしてみた場合に、高度の独創性があるものということはできず、このようなシンプルで重要な言葉の組合せからなる題号を特定の人にのみ独占させる結果となることは、不正の目的が認められる等の特段の事情がない限り、表現の自由の観点から見て相当ではない。」と判断しています。

話を映画に戻すと、同じタイトルの映画も結構あります。いわゆるシリーズものではなく、リメイク版です。

キングコング(1933、2005)
猿の惑星(1968、2014)
スーパーマン(1948、2013)
ゴジラ(1955、2014)
タイタニック(1958、1997)
バットマン(1943、2008)
ドラキュラ(1931、2014)
不思議の国のアリス(1933、2010)
ロストワールド/ジュラシックパーク(1925、2009)
出典:同じタイトルで“映画の特殊効果”の進化を比べてみた! - ViRATES
http://virates.com/entertainment/23258143
 

これらに関する商標登録を調べた結果、映画に関連するものとして以下のような登録がありました。「寅さん」は決め打ちで検索したもので、もっとたくさんあると思います。

① 寅さん(登録第5092512号・松竹株式会社)
第9類
映写フィルム,スライドフィルム,スライドフィルム用マウント,録画済みビデオディスク及びビデオテープ,電子出版物
② 寅さん(登録第5115356号・松竹株式会社)
第16類
印刷物,書画,写真,写真立て
③ SUPERMAN(登録第386822号・ デイ-シ- コミツクス)
スーパーマンの図形商標
第16類
雑誌,漫画雑誌,書籍,新聞,その他の印刷
④ GOJIRA(登録第5452756・東宝株式会社)
第41類
映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,映画の上映・制作又は配給
⑤ GOJIRA(登録第5508216号・東宝株式会社)
第16類
印刷物,書画,写真
⑥ GOJIRA(登録第5643626号・東宝株式会社)
第9類
録画済みビデオディスク及びビデオテープ,映写フィルム
⑦ TITANIC(登録第4403204号・20世紀フォックス)
第16類
印刷物
第41類
映画の上映・制作又は配給
⑧ BATMAN(登録第5572091号・デイーシー コミツクス)
バットマンの図形商標
第41類
ライブアクションコメディ・ドラマ又はアニメを内容とする劇場用映画による娯楽の提供
⑨ JURASSIC PARK(登録第3265502号・ユニバーサル シティ スタジオズ 他)
第41類
映画の上映・制作又は配給
⑩ JURASSIC PARK(登録第4094717・ユニバーサル シティ スタジオズ 他)
第16類
印刷物

ちなみに、昨年4月に改訂された審査基準では、3条1項3号「3.商品の「品質」、役務の「質」について」において以下のように規定されています。

ア)
「書籍」、「電子出版物」、映像が記録された「フィルム」、「録音済みの磁気テープ」、「録音済みのコンパクトディスク」、「レコード」等の商品について、商標が、著作物の分類・種別等の一定の内容を明らかに認識させるものと認められる場合には、商品の「品質」を表示するものと判断する。
(例)商品「書籍」について、商標「商標法」、「小説集」

エ)
「書籍」、「放送番組の制作」等の商品又は役務について、商標が、需要者に題号又は放送番組名(以下、「題号等」という。)として認識され、かつ、当該題号等が特定の内容を認識させるものと認められる場合には、商品等の内容を認識させるものとして、商品の「品質」又は役務の「質」を表示するものと判断する。題号等として認識されるかは、需要者に題号等として広く認識されているかにより判断し、題号等が特定の内容を認識させるかは、取引の実情を考慮して判断する。例えば、次の①②の事情は、商品の「品質」又は役務の「質」を表示するものではないと判断する要素とする。
①定期間にわたり定期的に異なる内容の作品が制作されていること
②当該題号等に用いられる標章が、出所識別標識としても使用されていること

 

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