商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

最近の商標法4条1項15号事案裁判例
=無効不成立審決の取消しが続く=

 最近の審決取消訴訟で、4条1項15号に係る無効審判事案で不成立とした審決の取り消しが相次いでいる。同号事案が多いわけではない中で、目立っている。
〇「鳥状図形ワンポイントマーク事件」 (審決取消し 知財高平成28年(行ケ)第10262号 平成29年9月13日 速報510-21019 審決「両商標非類似」、判決「両商標の全体的な配置や輪郭等に類似性あり」 )
〇「豊岡柳事件」(審決取消し 知財高平成29年(行ケ)第10094号 平成29年10月24日 速報511-21093)審決「豊岡杞柳細工」と「豊岡柳」は非類似、判決「観念上類似」)
〇「MEN’S CLUB事件」 (審決取消し 知財高平成29年(行ケ)第10109号 平成29年11月14日 速報512-21132)「男性用化粧品」と「男性用雑誌」の混同の虞を審決「否定」、判決「広義の混同採用」 )
〇「レッド・ブル赤牛図形事件」 (審決取消し 知財高平成29年(行ケ)第10080号 平成29年12月25日 審決「類似性低い別異の商標」、判決「類似性高く、類似性は混同の虞判断の一要素」)

 本件商標   引用商標


 審決取消しのポイントは、審決では本件商標と引用商標とは非類似として混同の虞なしとしているが、知財高裁では、類似性を広めに認めて、混同の虞ありとしている点である。前掲「MEN’S CLUB事件」 は広義の混同論採否の問題である。
 15号の規定では、両商標の類似性は求めてはいず、その必要はないが、同号の最高裁判例「レール・デュタン事件」(最高裁平成10年(行ヒ)第85号 平成12年7月11日 民集54巻6号1848頁)では、次のような判断基準を示している。
 「混同を生ずるおそれ」は、『当該商標と他人の表示との類似性の程度、他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や、当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の性質、用途又は目的における関連性の程度並びに商品等の取引者及び需要者の共通性その他取引の実情などに照らし、当該商標の指定商品等の取引者及び需要者において普通に払われる注意力を基準として、総合的に判断されるべきである。』としている。特許庁「商標審査基準4条1項15号」13版も、同旨である(改訂13版95頁)。

 この中の「当該商標と他人の表示との類似性の程度」について、審決では、11号と同じ判断をしているように見えるが、「類似性の程度」であり、11号とは同じではなく幅があって良い(拙著「商標法の解説と裁判例」改訂版2015年、191頁)。しかも、混同の虞の判断要素の一つで、類似が必須ではない。引用商標との「印象、記憶、連想等」が問題とされ、離隔観察が前提の判断である。そして、類似性が高ければ混同の虞が増し、他方、類似性が低ければ混同の虞が低いということで、この場合でも、他の判断要素如何では、混同の虞の判断は可能である。この判断の中で、両商標は「別異の商標」の用語を使用して混同の虞を否定する審判決も見受けられるが、商標法等にない用語で、意味内容が定かではなく、その使用は妥当ではないだろう。

 4条1項15号は、引用商標が登録商標である場合は、周知・著名登録商標の保護の一翼を担うもので、商標法上重要であることを忘れてはならない。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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