商標・知財コラム:首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士 工藤 莞司 先生

商標権の効力と侵害事件
=複雑化する侵害事件=

商標権とその効力 商標権は設定登録により発生する(18条1項)。商標登録出願について登録査定又は登録すべき旨の審決があって、登録料の納付があったときは、特許庁長官は商標原簿に商標権の設定の登録をする(18条2項)。
商標権者は、「指定商品又は指定役務について、登録商標の使用をする権利を専有する。」(25条本文)。商標権者には、登録商標の使用権の専有、すなわち、独占排他的に使用する権原を付与される。登録商標の独占的な使用権原であって、「専用権」とも呼ばれる。
商標権者は、指定商品・役務について登録商標の使用権を専有する結果、我が国において指定商品・役務についての登録商標のオンリーワンの使用が保証されて、出所表示機能が確保される。継続的な使用を通じて、業務上の信用(Goodwill)が蓄積され、また拡大して登録商標の周知・著名化が図られ、商標法の目的の達成へと向けられる(1条)。

商標権者が有する具体的権利 具体的には、自らの使用については専用権を有する一方、登録商標と同一又は類似で、他人が、指定商品・役務においても同一又は類似のもの(商品と役務の類似もある。)を無断で使用する場合は、商標権侵害となり(25条、37条1号)、商標権者は、使用を止めさせる差止請求権(36条)、逸失利益を含め損害に対しては損害賠償請求権(民法709条、侵害者には過失が推定される。39条・特許法103条)及び侵害品が粗悪品等である場合には信用回復措置請求権(39条・特許法106条)を有する。

最近の侵害事件 最近の侵害事件の事案は複雑、多岐にわたり、単純な登録商標に係る無断使用の例は少ない。例えば、使用許諾契約解除後の使用に対する行使(「学習塾教材許諾事件」大阪地裁28.2.8判決)、分裂団体間の一方が他方への行使(「極真事件」東京地裁28.11.24判決)、営業譲渡後の行使(「新高揚事件」東京地裁28.12.21判決)、新旧代理店間の争い(「オクタル事件」東京地裁29.3.28判決)などがあり、近時の取引の複雑化や経済情勢が反映している。

 このため、商標権は排他独占権という強力な権利であるが、その万全な管理は当然として、将来迄をも見据えた譲渡や使用許諾の契約締結、慎重な権利行使も必要である。弁理士・弁護士の協力を要するが商標法を専門とするかもチェックを要しよう。

首都大学東京 法科大学院 元教授 元弁理士
工藤 莞司

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工藤 莞司 先生
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